第24話 そして始まる
「ここが処刑場……」
布由は処刑場の門の前でそうつぶやく。欺瞞の魔女セレスナから偽造魔法をかけてもらい姿を処刑場職員の格好に偽っているが、布由は緊張と不安のあまり挙動不審になっていた。
「おい、お前そこで何してる」
あまりに布由が挙動不審だったのか、門の前にいる、警備に声をかけられた。
「あ、え、えーと……」
布由はわかりやすく動揺する。
「どうしたんだ?お前の持ち場はそこじゃないだろ。ほら、中へ戻れ」
警備は布由のことをセレスナの魔法によって同じ職場の人間に見えているのでそのまま布由を建物の中へ入れた。
「中に入れちゃった……とりあえず、セレスナさんに連絡しなきゃ」
布由は困惑しながらも処刑台を目指し歩いた。一方セレスナ、セルリア、フェルアの三人はそれぞれ詠唱魔法の準備をしていた。
「……布由は無事に中へ入れたみたいだな。よし、こちらも詠唱を始めようか」
フェルアの持っている連絡用の魔水晶が光り、セレスナの声が聞こえる。フェルアは杖を取り出し、地面に魔法陣を出現させる。そして水晶越しに三人は息を合わせ魔法の詠唱を始める。
『紅き炎をは煉獄を纏い、蒼き水は激流を渦巻き、翡翠の風は疾風の如く。白き光はその身を覆い、黒き闇は空を覆う——』
三人は順調に魔法の詠唱を続ける。だがその時事件は起きた。
「おい、そこで何をやってる!今すぐ魔法の詠唱を止めろ!」
そう、声を荒げながらフェルアの背後から男が杖を突きつける。フェルアも詠唱を中断し、男に杖を受ける。
「誰、あなた?」
「俺は魔法警備隊だ。この付近で強大な魔力を観測したのでな調査しに来たのだ。そしたらまさかこんなところで魔法の詠唱をしているとはな。既にほかの二地点にも警備隊が向かっている頃だろう」
男がそう言ったときにはすでに魔水晶は光を失いセレスナとセルリアと連絡はとれなくなっていた。
「さぁ、おとなしく杖を置け。さもないと力づくで拘束するぞ」
男はフェルアを脅す。だがそんなあっさりフェルアも身を引くわけはなく杖を強く握りしめた。
「あんたなんかに邪魔されるわけにはいかないの」
「……そうか、なら力づくだな」
男は左手を上げる。するとどこに隠れていたのかフェルアを囲むように多くの魔法警備隊が現れた。
「噓でしょ……」
「本当さ」
————————
セレスナからの連絡が途絶えてすぐに布由は処刑台を見つけた。そこには消えることのない黒炎が立ち上がり天井には魔法陣が描かれている。きっとそこからキリカが転送されるのだろうか。布由はまじまじとその中を見る。
「処刑台が気になるのかい?」
布由に渋い声の男が優しく話しかける。布由は驚きとっさに男の方を向いた。男は布由を見てにこりと笑顔を浮かべ話を続ける。
「この処刑台の天井に描かれている魔法陣はただの転送用の物じゃなくてねこの処刑場全体の結界も担っているんだ」
「……結界って言うのはこの処刑場の中で魔法科使えなくなるものですか?」
「その通り。ここの中では一切の魔法が使えない。効果を失うからだ。……ここまで言ったんだもう分かるな?お嬢ちゃん」
「!?」
男は表情を変えず布由を見る。想定外だった。まさかセレスナの偽造魔法すらも効果が無くなってしまうとは、布由は思ってもいなかった。恐怖で震える布由に男は静かに近づく。
「君が何を考えているのかは分からないが、これから処刑が執行される様子を特等席で見せてあげよう。ついておいで」
男はそう言って布由に背を向け歩き始める。逃げ出すなら今しかないと思った布由は後ずさりをして逃げ出そうとした。
「おっと、逃げようだなんて思わないでくれよ。生きてここを出たいなら大人しく言うことを聞いておくことだ」
布由の行動を分かっていたように男は振り返らずに、布由に言う。布由は大人しく男についていくとそこは所長室と書かれた豪華な部屋だった。
「この部屋はね、死刑囚が骨すら残らず灰になる瞬間を特別な部屋なんだ。表向きは所長室ってことになっているけどね」
男はそう言って椅子に座る。そして何やら机の上から資料を取り出し眺める。
「あぁ、この日を何度夢見ただろう。キリノルワ・カルトリア……禁忌魔法を創り出し世界を混沌に染め上げようとした魔女……実に愚かだ……」
男は資料をめくる。
「それともう一人。我が魔法警備隊に牙を剥きこの施設を破壊しようとした反逆者、フェルア・エトリア。他に協力者が二人いたと魔法警備隊から連絡があったが、それ以降連絡がないということはやられたのだろうな。だが一度に二人の処刑か。こんな贅沢は数百年ぶりだな」
男は嬉しそうに資料を机に置きなおし、二人の処刑を心待ちにしている様子だった。一方で布由は恐怖と強い絶望を抱いていた。キリノルワ・カルトリアという名前は聞いたことがなかったが今日処刑されるのであればおそらくキリカだろうと予想はついていた。だが予想外だったのはフェルアの方だ。まさか捕まっていただなんて。布由はちらりと魔水晶を見るがひかりは失われたままで何も反応を示さない。つまりここに助けは呼べないのだ。布由はあきらめず助かる方法を考えようとしたときそれは始まった。
「見てごらんお嬢ちゃん。魔法陣が起動し始めたぞ」
男はまるで芸術を鑑賞するようにそう言う。それと同時に布由の恐怖と絶望が加速するのだった。




