第22話 夏祭り
「あ、ふゆ!」
日が傾き始めた頃、布由は凛との待ち合わせ場所に来ていた。先に待っていた浴衣姿の凛は布由を見つけ手を振る。
「凛ちゃん、お待たせ」
布由は小走りで凛の下へ駆けていく。
「ふゆ、すごく綺麗な浴衣着てるね」
「そう?ありがとう。凛ちゃんの浴衣も似合ってるよ。今年の柄は向日葵なんだね」
「可愛いでしょ。おばあちゃんから貰ったんだ。お祭り行くならこれを着て行きなさいって。そういうふゆの浴衣はどうしたの?」
「私もその、お、おばあちゃん……から貰って……」
「なんでそんなに言い淀んでるの?まぁ、いいや。フェルアたちとは現地で落ち合う予定だからそろそろ行こうか」
こうして二人は祭り会場のである河川敷へと向かうのだった。
「やっぱり人多いね」
祭り会場である河川敷には多くの人であふれていた。
「どうやってあの二人と合流しようか」
「こんなに、人が多くて賑やかだったらスマホの通知にも気づかなそうだね」
布由はスマホでキリカに連絡を取ろうと思ったが、断念した。
「仕方ないから二人を探しながら歩こうか」
「そうだね」
凛の提案により二人はキリカとフェルアを探しながら祭り会場の中を歩く。
「ふゆ、りんご飴食べない?」
「二人と合流してからね」
「もー、そんな言わずに今は私達だけなんだから、ね。」
凛は布由の袖をつかみりんご飴が売られている屋台を指さす。
「うーん、まぁ、そういうなら……」
「やったー!おじちゃん、りんご飴二個頂戴!」
布由が迷いながら承諾すると凛は嬉しそうにりんご飴を買いに行った。そして二人はりんご飴を食べながら歩く。
「やっぱり、祭りと言えばりんご飴だよね」
「りんご飴なんて祭りでしか食べないもんね」
「あ、ふゆ、あそこに射的あるよ!景品は……大きな猫のぬいぐるみがあるよ」
凛の視線の先にある射的屋の中央の景品代には大きな黒猫のぬいぐるみが目玉商品の様に飾られていた。
「猫のぬいぐるみ!?凛ちゃんお願い取って!」
「いいよ。私に任せて!」
凛は浴衣の袖をまくり、屋台のおじさんからコルク銃と弾のコルクを五個受け取り射撃体勢に入る。片目を閉じ集中してぬいぐるみに狙いを定める。そして一呼吸おいて引き金を引く。コルクはまっすぐぬいぐるみ目掛けて飛んで見事に命中させた。だがぬいぐるみはピクリとも動かない。
「嘘、今当てたのに……」
「がんばって凛ちゃん!」
布由に応援された凛はもう一度構え直しぬいぐるみを狙い撃つ。だが残りの四発撃っても、ぬいぐるみは倒れる気配がない。
「あー、残念だったね。次はどこ行こうか。焼きそばとか食べる?」
「まだ……」
「え?」
「まだ、諦めない!絶対にあのぬいぐるみを取る!」
「凛ちゃん!?」
謎に火が付いた凛は追加で三百円を払い、微動だにしなかった猫のぬいぐるみを捕るため、再びコルク銃を手に取った。
「凛ちゃん落ち着いて、あれはもう取れないやつだよ!」
布由が必死に止めようとするが、凛が止まる様子はない。そんな二人の下に近づく足音。
「あ、凛と布由ちゃんだ。やっと見つけたよ」
「フェルアさん!」
「やっほー布由ちゃん」
黒ベースの色に色鮮やかな花が描かれた浴衣を着たフェルアは笑顔で布由に話しかけた。
「あれ、キリちゃんは?一緒じゃないんですか」
「キリならあっちで綿あめ買ってるよ」
フェルアの指さす方向には屋台で綿あめを二個買っている桜色の浴衣を着たキリカがいた。
「ところで凛は何をしてるの?」
「あの大きな猫のぬいぐるみを取るために頑張ってるの」
「ふーん、じゃあ私も手伝ってくるよ!」
「フェルアさん!?」
すぐにフェルアは凛の隣に移動してコルク銃を手に取る。
「凛、そのぬいぐるみを取るの手伝よ」
「フェルアが居てくれるなら百人力だよ」
そして二人はぬいぐるみを倒そうと協力する。それを布由は遠い目で眺めていた。
「布由」
ふいに名前を呼ばれた布由が振り返るとそこには綿あめを二個持った桜色の浴衣を着たキリカがいた。いつもは和服に身を包んでいるキリカだがこの浴衣姿もまた良いと思った布由は軽く見惚れていた。
「キリちゃん。浴衣とっても似合ってるよ」
「布由もよく似合ってるよ。そうだ、綿あめ食べる?ふわふわで甘くておいしいよ」
そう言って布由に綿あめを渡す。
「ありがとうキリちゃん」
二人は綿あめを食べながら射的をする二人を眺める。
「ねぇ、キリちゃん。お祭り楽しい?」
「うん。楽しいよ。叶うなら来年もみんなで来たいかな」
「きっと来年もみんなで来られるよ」
そう言って布由はキリカの手を優しく握った。二人がそんな話をしていると射的を終えた凛とフェルアが何やら黒い大きなものを持って駆け寄ってきた。
「ふゆ、ぬいぐるみ取れたよ」
「キリカ、ぬいぐるみ取れたよ」
二人は声をそろえてそう言って、大きな黒猫のぬいぐるみを布由とキリカに渡した。
「ありがとう凛ちゃん!でもなんで二個も……」
「フェルアと二人で協力してぬいぐるみを取ったら屋台のおじさんが感動しておまけでもう一個貰ったんだよ」
「そういうことだからこれはキリにあげるよ」
「ありがとう。フェル」
黒猫のぬいぐるみを貰ったキリカは優しく微笑んだ。
「あ、そろそろ花火の時間だ。見やすいところに行かなきゃ」
布由はスマホの時計を確認する。
「じゃあ、何か食べ物買っていかない?焼きそばとか」
「私、唐揚げ食べたい!」
「ならいろいろ買いながら移動しようか」
そして四人はそれぞれ焼きそば、唐揚げ、かき氷、ベビーカステラを買って花火が見やすいベンチのある場所に移動した。程なくして一発目の大きな花火が打ちあがり、その音が祭り会場中に鳴り響く。それが終わると次は連続して色とりどりの小さな花火が夜空を照らした。
「綺麗だねぇ」
「初めて花火を見たけどこんなに綺麗なんだ」
四人は首が痛くなるほど空に打ちあがる花火を眺める。だがそんな美しい花火にも終わりはやって来る。最後に打ちあがるのは特大の花火。その花火が打ちあがり夏祭りは終わりお迎えた。
「もうおしまいか」
「あっという間だったね」
そして最後に打ちあがった花火を見終わった四人はそれぞれ家へ帰ることになるのだが布由、フェルア、そしてキリカは森の喫茶店クロネコに帰っていた。三人が店に入るとそこには三人の帰りを待っていたキリカの使い魔である黒猫、クロと欺瞞の魔女セレスナ・クロースがいた。
「夏祭りは楽しめたみたいね。それじゃあ布由、フェルア、着替えてきなさい。魔法界に行くわよ」




