第21話 親友
「暑い……」
夏の昼間という一番暑い時間帯に、台所に立ちそうめんを茹でる布由は、額から流れる汗をタオルで拭く。茹で上がったそうめんを湯切りし盛り付けリビングの机に持っていく。すると机に置いてあるスマホに一件の通知が届き、画面が光る。
「あぁ、そうか今日なんだ夏祭り。楽しみだな」
スマホのリマインドアプリからの通知。そこには「夏祭り今日の18時から!」と映し出されていた。その後そうめんを食べ終わった布由は今日も魔女のキリカが経営する森の喫茶店クロネコへ向かう。
「あ、いらっしゃい布由」
「キリちゃん来たよ!……ってセレスナさんもいたんですね」
意気揚々とキリカのいる喫茶店に入った布由はすでにキリカの目の前に座っている魔女セレスナを見つけた途端、肩を落とした。
「自分の孫にそんな露骨にテンション下げられたらおばあちゃん悲しいぞ?」
セレスナは微塵も悲しそうにせず布由を見ながらそう言った。この魔女セレスナは見た目こそ若々しいがそれなりに歳を喰っている。
「ま、それはそうと布由、魔法はある程度上達したかい?」
「キリちゃんにしっかり教えてもらったからね。これくらいはできるよ」
そう言って布由は杖を取り出しセレスナに向けた。そして唱える。
「ルワトレイル!」
布由がその魔法を唱えるとセレスナの身体がふわふわと浮き始めた。
「ほう、上位魔法で人を浮かすまでになったか。さすが私の孫だ」
セレスナはふわふわ浮きながら腕を組み、布由の成長をかみしめていた。程なくして布由は魔力を維持できなくなり魔法が解けてしまいセレスナは座っていた椅子に降ろされた。
「短期間で上級魔法を習得させるとはさすがね、キリカちゃん」
「布由の努力のたまものですよ」
キリカはにこりと笑みを浮かべそう言う。
「そういえばセレスナさんは何か収穫はあったんですか?」
「あぁ、もちろん。……あまりうれしい報告じゃないけどキリカちゃんの転送方法と転送場所が分かった」
「どうやって調べたんですか?」
「私自ら創魔省に潜入して調べたの。他人を欺くのは得意だらね。こんなの朝飯前よ。それで転送方法なんだけど、日付が変わった瞬間、魔法界へ転送されるの。それでその場所なんだけど……牢獄じゃなくて処刑場だったの」
その瞬間店内の空気凍り付いた。
「そ、それって……」
布由は震える声で恐る恐る口を開く。
「残念だけど魔法界に転送した瞬間、処刑するんじゃないかな……」
「そんな……じゃあ、どうやってキリちゃんを救うの!」
「落ち着いて、布由。一応方法がないわけじゃない」
感情的になる布由をなだめながらセレスナは話を続ける。
「処刑場に貼ってある魔法無効の結界を破壊できればキリカを助けられる」
「なら今からその結界を解けば……」
「そう、解ければいいんだけどね。そんな簡単に解かれたら結界の意味がない。私が結界を解こうにも一日、いや一ヶ月あっても無理だ。それほどに強力で複雑なんだ」
「それじゃあ、結局……」
「だから壊すことにした」
「え」
「え」
それを聞いたキリカと布由の二人は目を丸くし開いた口が塞がらずにいた。
「その顔は結界を壊せること知らない顔だな。まったく……」
セレスナは頭を抱えため息をついてしまった。
「いいか、結界の解除って言うのは、なにも分析や解析だけじゃない。物量で破壊することもできるんだ。まぁそれでも多少時間はかかるし、共犯者の存在が一瞬でばれるリスクがあるけど、今取れる最善はそれかな」
「ですがいくらセレスナさんでも一人で処刑場の結界を破壊するのは難しいんじゃないですか」
「大丈夫だよキリカちゃん。気味のお師匠様が手伝ってくれるから」
「お師匠様が!?」
「あぁ、すごい嫌な顔されたけど手伝ってくれるそうだ」
それは三日前、創魔省に潜入し処刑場の結界が解除できないことを悟ったセレスナは見上げるほど大きな大樹へ向かいそこの主セリルア・ケリロに協力を求めっていた。
「それともう一人協力してくれる人が……」
セレスナがそう言いかけたとき店の扉が勢いよく開いた。
「キリ!」
店にやってきたのは血相を変えたフェルアだった。
「フェル!?もしかしてもう一人の協力者って……」
「そう。セルリアのところに行ったとき、ちょうどフェルアちゃんが居てね、事情を話したら協力してもらうことになったの」
「……フェル」
「キリのバカ!なんでもっと早く教えてくれなかったの!親友が処刑されるのを黙って見るだけなんて嫌だよ」
フェルアは感情に任せ声を荒げる。そしてその眼には涙が浮かんでいた。
「ごめんフェル……フェルには私の口から伝えておくべきだったよ」
「本当だよ……バカ……」
フェルアの堪えていた涙があふれ始める。
「それじゃあ、私と布由はお暇させてもらうよ。また時間が近づいたらここに来る」
そう言ってセレスナは布由の手を取り自分の下へ引き寄せた。
「ちょっとセレスナさん」
「今は二人だけにしてあげよう」
そうしてセレスナと布由の二人はセレスナの空間移動魔法で店から布由の自宅前まで一瞬で移動した。
「お店にいたのにもう家の前にいる……」
「空間移動魔法、はじめてだったかな」
「はい、初めてです」
「何をいまさら緊張しとる?」
「だって、自称祖母といきなり二人きりになるのはちょっと……」
布由は目をそらし、セレスナとの距離感を図ろうとしていた。
「そうか、ならこれで少しでも距離が縮まればいいんだが……ほれ、布由。おばあちゃんからのプレゼントだ」
セレスナはどこからかアジサイ色の浴衣を取り出し布由に渡した。
「浴衣?どうして」
「今日はキリカちゃんたちと夏祭りに行くみたいじゃないか」
「そうですけど、どうしてそれを知って……」
「フェルアちゃんから聞いたのだよ。それに思い出作りは今のうちにしておくのが良いだろう」
「そうですね。祭りに行こうって話してた時はまさかこうなるとは思っても見なかったですから。ありがとうございます。セレスナさん」
布由は素直に笑顔で礼を言う。
「いいんじゃよ。それとできれば布由にはおばあちゃんと呼んでほしいんだが」
「……考えておきます」
そうして布由は渡された浴衣を抱え家へ戻り、セレスナは空間魔法を使ってどこかへ行ってしまった。そして夕方。布由は貰ったアジサイ色の浴衣に身を包み、夏祭りへ向かう準備を整えるのだった。




