第19話 罪人
『もしもし、布由?今ちょっといい?』
昼過ぎ、突然布由のスマホに魔女のキリカからの電話がかかってきた。
『どうしたの?キリちゃん。今暇だけど』
『暇なの?ならよかった。突然で悪いんだけどすぐにお店に来てほしいの。布由に会いたいって人が来てるの』
『私に会いたい人?分かった、すぐに行くよ』
布由はキリカからの電話を受け、すぐにキリカの待つ森の中の喫茶店クロネコへ向かった。
「キリちゃん、来たよ」
お店の扉を開け布由は中へ入っていく。そこにはキリカとその使い魔の黒猫クロの他に、見慣れない魔女のお姉さんが一人キリカの前のカウンター席に座っていた。なんとなくその魔女の隣に布由は座った。
「布由ー!会いたかったわ!」
「えっ!?」
布由が隣に座るなりその魔女は布由に抱き着こうとした。だがキリカが布由を守るように割って入り阻止されてしまった。
「布由に抱き着こうとするのはやめてください。セレスナさん」
「相変わらずキリカちゃんは布由のことが好きだね」
ニヤニヤしながら魔女のセレスナは二人のことを眺めていた。この魔女セレスナ・クロースは欺瞞の魔女と呼ばれ、高位の隠匿魔法を得意としている。そして、布由の祖母でもある。
「もう、それは良いので早く布由に本題を話してあげてください!」
「そうね、布由も来たことだし話をしようか。まず本題へ入る前に。いいかい、これから話すことは他言無用だ。良いね?」
「……わかりました」
穏やかだった空気は一気に緊張感に包まれた。
「まず先に話すけど、キリカちゃんは三週間後、魔法界へ強制送還されることになった。残念だけど人間界へ戻ってくるのは難しいかもしれない」
セレスナは険しい表情で突然そう告げる。
「え?なんで?うそでしょ?急すぎるよ。なんで魔法界に強制送還ってどうして……キリちゃんがなにしたの」
「布由。落ち着いて。こうなったのは私のせいなの。ごめんね」
「え、嘘、キリちゃん……」
突然の話で混乱する布由にキリカは優しく話しかけ布由を落ち着かせようとした。
「私はね、こっちの学校に入学する前は魔法界の学校に通ってたんだ」
布由が落ち着いたのを見てキリカは、話し始める。
「通い始めたときは毎日が楽しかった。私は魔法が好きだから毎日魔法の勉強をしていつか自分で魔法を作りたいって思ってた。たとえそれが禁忌魔法だったとしても。ある日いつものように魔法の研究をしていたら創魔省の人達が学校に来ていきなり私に拘束魔法をかけたの」
「……なんで、キリちゃんが」
「禁忌魔法制作の疑いをかけられていたんだ」
「布由には一度見せたことがある魔法、極位魔法ストルレイ。これの派生魔法が禁忌魔法だったの。それ以外にも複数禁忌魔法と言われる魔法を創っていてしまったの」
「禁忌魔法を創ったらどうなるの?」
「問答無用で投獄されるの」
「それだけじゃない。最悪処刑されてしまう」
人間である布由にセレスナが補足してくれた。禁忌魔法の製作は魔法界の法律で固く禁止されており、製作又は使用した場合、即刻牢獄へ送られ禁固刑を言い渡される。そして最悪処刑されてしまうのだ。それを聞いた布由の顔は青ざめていた。
「で、でもキリちゃんはここにいる」
「そう、私は拘束魔法を解いて逃げ出したの。それ以来私は魔法界の学校へは行ってない。身分を変え、名前を変えずっと逃げるように身を隠して生きてきた。ここへ来て喫茶店を営業してるのも創魔省から逃げるためなの。でも今日の朝これが送られてきたの」
キリカは一枚の手紙を布由に渡した。
「最終通告書……」
「そう。それが今日ここへ送られてきたの。それに書かれているけど指定された日までに魔法界に帰らなければこの場所は消される」
「でも魔法界に帰っちゃったらキリちゃんは最悪処刑されちゃうんだよ……だったら逃げよう、ここじゃなくてもキリちゃんと一緒なら私……」
「それはだめ」
布由の言葉を遮るようにキリカは言う。
「ここは布由と初めて出会った場所だから残しておきたいの」
「じゃあキリちゃんはどうするの?もしかして自首するの?」
「うん。もしかしたら刑が軽くなるかもしれないし」
そうキリカは布由を心配させないように明るく話すがセレスナは暗い顔をしていた。なぜなら自首したところでキリカの刑が軽くなることはないからだ。そう、キリカは処刑を免れない。それほどの罪を犯してしまっているのだ。そしてセレスナは深呼吸をしてパチンッと手を叩いた。
「はい!暗い話はここでおしまい!遅くなったけど本題を話すよ」
「そうだった、まだ本題じゃなかったんだ」
「それで本題って何ですか?」
「君を救う方法についてだよ。キリカちゃん」
セレスナのその一言に布由とキリカは目を丸くし声も出ず驚いていた。
「なんで、私はこれから……」
「落ち着きなって、私としてもキリカちゃんがもし、処刑されちゃってセルリアや布由が悲しむ姿何て見たくないからね」
「でもどうやって。私はおそらく魔法界で最も厳重な監獄に収容されるかもなんですよ」
「私をだれだと思ってるんだい?人を欺く、欺瞞の魔女様だぞ?」
胸を張ってセレスナそう言った。
「ただ、私ひとりじゃ、キリカちゃんを救えない。だから協力者が必用なの。協力してくれる?布由」
セレスナはちらりと自分の孫である布由の方を見る。
「ダメです!布由を危険にさらさないで!布由は人間なんですよ!それにまだ魔法は練習中なんですよ!」
セレスナにキリカは強く反発する。
「心配しないでキリちゃん。まだ三週間あるんでしょ?私頑張るから」
「ダメ!……お願い布由……」
眼に涙を浮かべたキリカは布由の手を握って切実に言う。布由に傷ついてほしくない。危険な目に遭ってほしくない。そして何より布由に死んでほしくない。そう思うキリカの手は震えていた。
「大丈夫だよキリちゃん。私キリちゃんのためならなんだってするつもりだし、キリちゃんとお別れなんて、そんなの嫌だからね」
布由は優しくキリカの手を握り返し安心させようとしていしている。
「分かった。布由を信じるよ」
「フフッ、さすが私の孫娘ね。それじゃあ作戦会議を始めましょうか」
こうしてキリカの処刑を回避するための作戦会議が始まった。




