第16話 魔女とテニス
期末テストが終わった日の夜、喫茶クロネコにて。客が少なくなってきた頃とある魔女が喫茶クロネコの扉を開けた。
「キリー、遊び来たよー。あれ、今日も布由ちゃん居ないんだ」
意気揚々と喫茶クロネコへやってきた魔女フェルアはいつも通りキリカの前のカウンター席に座った。
「布由はあの日だけだよ。もしそんなに会いたいならもっと早い時間に来なよ」
「これより早い時間だと私のテニスに行く時間が無くなっちゃうんだよねぇ」
「テニス?フェルってテニスやってたんだ」
「最近始めたんだ」
フェルアは楽しそうに話す。そういえば最近よくフェルアが人間界に来ているが、「もしかしてテニスしに人間界へ来ているのでは?」とキリカは思ったが、口にはしなかった。
「普段運動しないんだし、ちょうどいい趣味ができてよかったんじゃない?」
食器を片付けているキリカはフェルに背を向けながらそう言う。
「そうなんだよ、毎日でも通いたいくらいなんだけど、私の相手できる子が週3回しかこないから、その日を狙って行ってるんだよね」
「そこまでして、その子とテニスしたいんだ」
「だって一番強いんだもん」
グラスに入った氷を掻きまわしながらフェルアは楽しそうに言う。
「体動かすのもいいけどレポートもちゃんと書きなよ?」
「分かってるよぅ」
頬を膨らませてフェルアは答える。その後も店が閉まるまで二人はしゃべり続けていた。
数日後、凛からの遊びの連絡を受け、布由とキリカは凛の待つ大型アミューズメント施設に来ていた。
「さて、まずは何しようか」
「ボーリング、テニス、ローラースケート、何でもありますね」
「じゃぁまずは、ローラースケートやろう!」
布由は案内掲示板に書かれているローラースケートができる場所を指さし、三人はそこへ向かった。フロントで借りたローラーシューズを履き、凛とキリカはコートへ繰り出す。二人は初めてとは思えないほどに安定してまっすぐ滑れていた。
「初めてだけど意外と滑れるね」
「なんというか新感覚です。タイヤの付いた靴で地面を滑るなんて……」
さすがは運動神経の良い二人だ。そしてあっという間にスイスイと円を描くように滑るほどまでになっていた。一方、布由はというと。
「凛ちゃん!キリちゃん!おいてかないで!」
膝をガクガクさせて、手すりにしがみついて凛とキリカに助けを求めているのであった。
「ふゆ、いったん落ち着いて」
「ほら、私の手掴んで」
「う、うん」
凛とキリカの二人はそんな布由のところへすぐに戻り布由の手を引いた。
「ねぇ、二人とも手、離さないでね」
布由は、不安そうな目で二人を見る。
「大丈夫、離さないよ」
凛は布由を安心させるため、優しく語り掛ける。
「布由、背筋を伸ばしてごらん。姿勢が安定するよ」
「やってみる……」
キリカからアドバイスを受け、布由はゆっくりと背筋を伸ばし始めた。すると今まで見えていた世界がぐっと広がった。そして布由は思い切って地面をひと蹴りしてみるとゆっくりだが前に進んだ。
「もう手、離しても大丈夫そう?」
「待って、キリちゃんまだ離さないで!」
「ハイハイ、離さないよ」
キリカは両手で布由の手を握りゆっくりと引っ張る。
「初めて補助輪外して自転車に乗る小学生じゃん」
その様子を見ていた凛はニコニコ笑っていた。それから数十分、凛とキリカで布由にコツを教えていると遂にぎこちなくはあるが一人で滑れるようになった。
「見て!私ひとりで滑れてるよ」
「ちゃんと見てるよ」
「写真も撮ってるからね」
時間はかかったが一人で滑れるようになった布由を見てキリカと凛はとても喜んでいた。そしてしばらくローラースケートを楽しんだ三人が次に向かったのは室内テニス場だった。
「うーん、なかなか張り合いのある人間がいないなぁ、……あれ、あそこにいるのって……」
テニスコートに立つ一人の少女はラケットを見つめながらそうつぶやく。そしてそんな少女の視線の先には凛、キリカ、そして布由の三人がいた。
「私、テニス久しぶりにやるよ」
「私はテニス初めて。うまくできるかなぁ」
「深く考えなくても大きい卓球だと思えばいいよ」
「私たちの使うコートはあそこだね」
「あれ?誰かこっちに走って来るよ」
布由たちの使用するはずのコートからラケットを持った少女が駆け寄ってくる。
「凛ー!」
「フェルア!?」
凛と名前を呼びながら走って来た少女は布由とキリカがよく知る魔女フェルアだった。
「あっ、キリと布由ちゃんもいたんだ」
「何でフェルがここにいるの?」
「何でって、テニスしたかったから」
そうキリカがフェルアに問うとフェルアはさも当然かのように答える。
「布由もフェルアと知り合いなの?」
「うん、最近知り合ったんだ。凛ちゃんこそいつの間に知り合ったの?」
「一ヶ月前から私がバイトしてるテニススクールに、来るようになって、一緒にラリーしたり試合したりしていつの間にか友達になったんだ。因みに、フェルアは強いよ」
フェルアが、テニスが強い事を布由に少し、自慢げに言う。それを聞いた布由は何故か悔しそうな顔をしていた。
「じゃあさ、四人でテニスしない?二対二に分かれて一セットだけ」
「いいね、それ布由ちゃん。やろうよ」
フェルアはテニスが出来る事を喜び、やる気に満ち溢れていた。
「じゃあ、くじ引きでチーム決めようか」
凛の提案によりくじ引きでチームを決めることとなった。決まったチーム分けは、凛と布由チーム、キリカとフェルアチームに分かれた。
「布由と同じチームなんて初めてだ」
「いっつもラリーの相手だけだったもんね」
「私、テニス初めてだけど大丈夫?」
「キリは呑み込みが早いから何も心配してないよ」
そして四人はコートに立ち、凛のサーブでゲームが始まった。凛の強めのサーブをテニスが始めなキリカは軽々打ち返した。ただ力が足りず打ち返した球はゆっくりと布由の前に飛ぶ。
「貰ったっ!」
意気揚々とその球を布由はスマッシュでコートの端目掛けて打ち返す。が、それわかっていたかのようにフェルアは球の着地点に走りあっさり打ち返し点を取った。
「噓でしょ……」
「言ったでしょ、フェルアは強いって」
「次は油断しない」
それから布由はフェルアに食らいつくように球を返す。すると一セット終わるまでにはフェルアとほぼ互角に渡り合えるまでになった。キリカも同様にすさまじい成長を見せていた。そして一セットを取ったのはフェルアとキリカのチームだった。
「もう一セットやろう!」
「いいよ、私もやっと感覚をつかんできたから」
「私も楽しかったからまだやりたい!」
「じゃあ、もう一セットやろうか」
こうしてテニスの延長戦が始まった。しかし結局続く二セット目では終わらずその後も追加で二セット、計四セットが終わるまで四人はテニスを楽しんでいた。その後も四人はボーリングやメダルゲームなどをして気が付けば日が傾き始める時間になり、この日はそこで解散となった。そして家に帰った布由は寝るまでスマホの写真フォルダを眺めていた。そこには今日の終りに撮った四人の写真が写っていた。




