第15話 夏休みに向けて
『ねぇ、ふゆ聞いてる?』
この暑い夏の時期には珍しく、開けた窓から心地の良い夜風が入る頃、スマホ越しに凛の不満げな声が聞こえる。
『あーごめん、ごめん。ぼーっとしてた』
パジャマを着た風呂上りの布由はベットの上に寝転び、枕元に置いてあるスマホを手に取る。
『なんの話だっけ。最近テニススクールに強い人が来た話?』
『違うよ!夏休み何するかの話だよ!』
夏休み。それは布由たち学生の気分が浮足立ちアクティブになる約ひと月の期間である。
『もう夏休みかぁ』
『そうだよ、海とかプール行ったり花火したりしようよ』
『良いねそれ!他にも、かき氷とかソフトクリームとかも食べたいな』
そして夏休み前のこの時期こうして友達同士で予定を立て、夏休みが始まるのを心待ちにしているが忘れてはならないことがある。
『そういえば期末テストもうすぐだね。そろそろ勉強しないと私ヤバイかも』
そう。期末テストである。この夏休み、長期休暇が始まる前にある学生にとっては負のイベントだ。
『期末テスト……嫌だなぁ、勉強したくないよ』
『でも赤点取ったら夏休みに補習があるから勉強しないと。なんだったら教えようか?』
『お願い凛ちゃん教えて!』
『良いよ。じゃあ明日、学校でね』
『うん。また明日』
布由はそっとスマホを切り、部屋を暗くして眠りについた。
そして翌日。昨夜拭いていた心地の良い夜風とは裏腹に、灼熱の日差しの下を歩き布由は学校へ向かい、クーラーが効き始めた教室の中へ入った布由はすぐに机の上に突っ伏した。
「あづい~」
「どう、涼しい?」
隣りに座るキリカは、机に突っ伏している布由に下敷きをうちわ代わりに仰いでいる。
「ほら、ふゆ水買って来たよ」
片手に水の入ったペットボトルを持って教室へ入ってきた凛は、その冷たいペットボトルを布由の机に置こうとうとしたが、何を思ったのか机には置かず、布由の首筋に冷たいペットボトルをそっと当てる。
「ひゃっ!冷たっ!」
「布由!」
布由は突然のことに驚き、飛び起きた。振り向いてみるとそこにはペットボトルを持っている凛が立っていた。
「もーっ!凛ちゃん!」
「ごめん、ごめん」
凛は布由に怒られたが、どこか楽しそうな笑顔を見せていた。
「ところで今日、私たちに勉強教えてくれるんだよね」
布由は水を飲んだ後、凛に聞いた。
「うん、放課後にね。場所はこの教室で」
凛がそう言った通り放課後、凛、布由そしてキリカの三人は教室に残り、期末テストに向けての勉強会を始めた。机を合わせて教科書とノートを開きお互いに、いやほとんど布由に教え合い始めた。
「ふゆ、ここ間違ってる」
「坂本さんここ、これで合ってます?」
「うん、合ってるよ」
意外にも面倒見のいい凛は二人の様子をこまめに見ている。キリカはすらすら問題を解いているが布由はどこか難しい顔をしていた。
「凛ちゃーん、もう疲れたよ」
「え!まだ三十分も経ってないのに、もう疲れたの!?」
三人が勉強を始めて僅か三十分が経った頃、教科書を見ながら問題を解いていた布由は早々に音を上げ出してしまった。
「何かご褒美がないとつまらないよ」
「だったら、ここまで頑張って問題を解いたら私が作ったクッキーあげるよ」
そう嘆いている布由にすかさずキリカはクッキーの入った袋を見せる。すると布由は目を輝かせ問題を勢いよく解き始めた。
「チョロすぎるよ、ふゆ……」
凛はそうつぶやき布由を心配そうに眺める。そして数十分後……。
「できた!」
その報告を聞いた凛とキリカは布由のノートをのぞき込んだ。
「すごい、全部合ってる」
「やればできるじゃん布由!はい、クッキー」
「やったーありがとうキリちゃん!」
布由はさっそくキリカから受け取ったクッキーの入った袋から一枚クッキーを取り出し、もぐもぐと食べる。
「ふゆ、美味しそうに食べるなぁ」
「良かったら坂本さんも食べます?いっぱいあるんで」
鞄の中からさらに、クッキーの入った袋を全部で五袋取り出した。
「そんなに持ってきたの!?まぁ、そんなにあるならひとつ貰うわ」
そして凛もキリカの作ったクッキーを食べる。
「甘い……」
クッキーを一口かじった凛は思わずそう言葉を漏らした。
「砂糖をいつもより多めにして焼いてみたんです」
「キリちゃんのクッキーはいつも美味しいからね」
そう言いながら布由はどんどんクッキーを食べ進めていた。
「悔しいけど確かにおいしい」
「たくさんあるから、いっぱい食べてくださいね」
「わーい」
勉強の休憩として三人はクッキーを食べる。それから三人は休憩が終わってもクッキーを食べながら期末テストに向けての勉強をその日の最終下校時刻までつづけた。
そして三日後、夏休み前の期末テストが始まった。沈黙の中の教室にシャーペンを走らせる音、プリントをめくる音が響く。この学校の期末テストは五日間午前中のみ、行われる。
五日後、遂に期末テストが終わった。テストが終わった教室の中はいつもよりにぎやかだった。
「終ったー!」
「お疲れ様、布由」
「これで終業式まで気兼ねなく過ぎせるよ」
テストが終わり布由は体を伸ばしていた。そんな布由に李難はゆっくり近づく。
「ところで、そんなテストから解放されたふゆよ、体を動かしたくはないかい?」
「動かしたい!」
布由は元気に返事をする。
「それじゃあ次の休みに、どこか遊びに行こうか。黒華さんもどう?」
「是非ご一緒させていただきます」
「よし、じゃあまた詳しいことが決まったら連絡するよ」
「やったー!楽しみだな」
こうして夏休み前の期末テストが終わり、待ちに待った夏休みが始まるのだった。




