第12話 布由と欺瞞の魔女
「キリちゃんが二人いる……?」
キリカに呼ばれて森の中の喫茶店クロネコに来て、店の中で和服を着たキリカと話していたが、突然喫茶店の扉が開き外にもう一人キリカが立っていたのだ。
「お帰り、待ってたよ。キリカちゃん」
「誰、あなた。なんで私のふりして布由といるの」
外にいるキリカは魔法の杖を構え、発生の早い雷魔法を撃てるよう魔力を込めている。
「私が呼んだんだからいるに決まってるだろ?それに手紙にも書いておいたはずよ」
「手紙って、まさか!?」
外にいるキリカは構えていた杖を降ろしポケットから今朝受け取った手紙を取り出した。そしてすぐに理解した。この目の前にいる偽物の自分こそこの手紙の送り主、セレスナ・クロースであることを。
「あなたがセレスナ・クロースさんなんですね……」
外にいたキリカはゆっくりと歩きながら店の中へ入っていく。
「いかにも。私が欺瞞の魔女、セレスナ・クロースだ」
そう威厳を魅せながら言うと、和服を着ているキリカの姿が一瞬にして緑色の美しい髪を肩にかけた、美しい女性に変化した。
「えっ!?キリちゃんがお姉さんになっちゃった!」
布由は目の前で姿の変わったキリカを見て驚き、目を回しその場から三歩ほど後ずさりをした。
「やっほー布由。こっちの私の方が魅力的でしょ」
「ふぇっ!」
「布由!私はこっち!惑わされないで!」
キリカは混乱する布由の腕を引っ張りセレスナから離すように自分の胸に引き寄せる。
「あらあら、可愛いことしちゃって」
「あまり布由をからかわないでください!」
「キリちゃん……苦しい……」
あまりに強く抱きしめていたせいで布由がキリカの胸の中で苦しそうにしていた。
「あっ、ごめん!布由」
慌ててキリカは布由を離す。
「まぁ、とりあえずそこに座って。魔導書は持ってきたんでしょ?」
「持ってきましたけど……」
二人はカウンター席に座り、セレスナに真っ黒な魔導書を渡した。そしてその魔導書をキリカと布由に見せるように手で持ち、表紙を指さした。
「二人ともこの表紙になんて書かれてるか読める?」
「……真っ黒で読めないです」
キリカは首を横に振る。この魔導書には隠匿魔法というセレスナが生み出した、魔法が掛けられている。この魔法をかけられた魔導書の表紙の文字は同じ魔力の波長をもつ者にしか見えないようになっている。キリカが読めなかったのは魔力の波長が合わなかったためだ。だが布由は違った。
「文字は読めないけど何か書いてあるのは見えてるよ」
「なんで布由が表紙の文字を見えてるの!?」
キリカが驚くのも当然だろう。そもそも布由の様なただの人間が魔力を持っているはずがないのに、魔力の波長が合わないと読めない文字を見えてしまったのだから。
「どういうことなんですかセレスナさん。布由は人間なんで魔力をもっていないんですよ」
「どうもこうも私の孫なんだから当然だろう?」
「え?」
「え?」
突然セレスナから目を合わされそう告げられた布由は困惑から固まってしまい意識がどこか遠くの方へ飛んで行ってしまった。同時に隣にいたキリカも見た目と年齢に驚きながら、天を仰ぐ布由の方を見ていた。
「人間の成長スピードは速いねぇ。あんなに小さかったのにもうこんなに大きくなって……」
「ちょっと待ってくださいセレスナさん……理解が追い付かないんですが……」
キリカは頭を抱えながらセレスナに説明を求める。
「深く考えなくていい。布由と私は血縁関係にあるだけ。だからその血の中に魔力が僅かでも混じっていても何にも不思議じゃない」
「じゃあこの魔導書に掛けられた隠匿魔法はそれを確認するためのなんですか」
「それもあるけど布由に、自分は魔法を使えると自覚させたかったの。今はまだ魔法が使えなくてもいつか必ず使える時が来る。その時に布由の身に起こる魔法による暴走や混乱を抑えるためにこの魔導書は必要なんだ。だからどうかこの魔導書を使って布由に魔法を教えてあげて欲しい」
セレスナは魔導書に掛けられた結界と隠匿魔法を解除し魔導書をキリカに差し出した。
「……分かりました。私が責任をもって布由に魔法を教えます。ですが布由の身に何かあればすぐに魔法を教えるのをやめます。それでもいいですか?」
「えぇ、かまわないわ。ありがとう、キリカちゃん。布由のことをお願いね。それと何か困ったことがあったら、あなた達が通っている学校の校長室へいらっしゃい。いつもそこで待ってるから」
「セレスナさんって校長先生だったんですか!?」
「そうよ。あなた達を見守るのにちょうどいいの。じゃ、私は帰るから布由をよろしくね」
セレスナはキリカに布由を任せ、風のように去っていった。
「もう、いなくなっちゃった……ねぇ、布由。布由は魔法使ってみたい?」
キリカはそう隣にいる、布由に聞いてみるが返事が返ってこない。
「あれ、布由?」
キリカは不思議そうに隣りの布由の方を向くとそこにはまだ意識がどこか遠くの方へ飛んで行ってしまったままの布由が座っていた。
「あー!布由!帰ってきてー!」
慌てて布由の身体を揺らし布由の意識を戻した。
「ハッ!私は一体……そういえばあの人はどこ行ったの?何かとんでもないことを言われた気がするんだけど」
「セレスナさんならさっき帰ったよ」
「そっか……」
布由はどこか安心しているような顔をしていた。
「それでね布由。布由はもし自分が魔法を使えるなら使ってみたいと思う?」
「急な質問だね。でもまぁ、使えるなら使ってみたいかな。空を飛んだり、水を出してみたりしたいな」
「そっか。じゃあ使えるように練習しよっか」
キリカは布由の手を握り優しく微笑む。
「えっ私、魔法使えるの!?」
「うん。セレスナさんが教えてくれたの布由の体の中には僅かだけど魔力が流れてるから練習すれば使えるようになるんだって」
「もしかして魔法はキリちゃんが教えてくれるの?」
「うん」
それを聞いた布由はキリカの手を握ったまま嬉しそうな笑顔で立ち上がった。
「私も魔法使えるんだ……ねぇ、まずはどんな魔法教えてくれるの?」
「フフッ、まずはね……」
キリカは魔導書を開き初球の魔法が載ったページをめくる。布由も一緒になって魔導書をのぞき込んでいた。それからキリカは陽が暮れるまで布由と一緒に魔導書を読みながら魔法を教えるのだった。




