第11話 イチゴタルトとガトーショコラ
魔法界、見上げるほど大きな大樹の中にある無数の部屋の一室にセリルア・ケリロという魔女が籠っている研究室がある。そこへキリカとクロは真っ黒な本を持って訪ねた。もちろんイチゴタルトも一緒に。
「入りますよ、お師匠様」
研究室の扉を軽くノックしゆっくりと扉を開け中へ入っていく。相変わらず研究室の床の上には足の踏み場の無いほどに資料や道具が散乱している。
「……いい加減片付けて欲しいなぁ」
そうキリカが愚痴を漏らすと、床に散らかっていた資料や道具が突然ふわりと浮き上がりまるで自我を持ったかのように元あった場所へと飛んで行ってしまう。そしてあっという間に足の踏み場すらなかった研究室がきれいに片付いた。
「どうじゃ、きれいになったじゃろ?」
「起きてたんですかお師匠様」
キリカの方を見ながら椅子に座っているのは魔女セリルア・ケリロ、キリカとフェルアの師匠だ。
「事前にお前が来ることをフェルアから聞いておったからな。もちろん、その手に持っとる真っ黒な魔導書の事も……」
セルリアはキリカが持っている真っ黒な本を指さす。
「やっぱりこれ、魔導書だったんですね」
「ほれ、見せてみろ」
キリカはセルリアに真っ黒な本を渡す。そしてセルリアはじっと本を見つめ始めた。
「この結界の張り方セレスナじゃな……」
「解除できそうですか?」
「わしを誰じゃと思っとる。こんな結界、解除するのなんて造作もないわ」
あっという間に結界を解除したセレスナは魔導書の表紙を見る。だがすぐに解除した結界を張り直した。
「さすがお師匠様ですね」
「じゃが、これの中身を見るのはわしらではなさそうじゃ」
そう言って真っ黒な本をキリカに返した。
「どういうことですか?」
「この魔導書にはお前に、渡した手紙にかけたあの魔法と同じ魔法が結界として貼ってあったんじゃよ」
それは同じ魔力の周波数を持つ人が魔力を込めると隠されてる文字が浮かび出てくる、という高位の隠匿魔法である。
「それじゃあ、この本の中身を見られるのは……」
「これを作ったセレスナか同じ魔力周波数を持つ誰かだけじゃな」
「その、セレスナって人はどこにいるんですか?」
「さぁの。奴が今どこにいるかはわからんがどこかの学校で校長をしとると言っておったのう」
セルリアは窓の外を眺めながら懐かしそうにそう言った。
「ところで忘れかけておったがイチゴタルトは持ってきたんじゃろうな」
「ありますよ」
キリカはイチゴタルトの入ったかごをセルリアに見せる。
「フェルも呼んでお茶にしましょう。クロ、フェルを呼んできてくれる?たぶん自分の部屋にいるはずだから」
「分かりましたわ」
そしてクロがフェルアを呼び、三人と一匹で大樹の外にある庭で茶会が開かれた。
「そういえばセレスナってどんな人なんですか?」
度々セルリアとの会話の中に出てきたセレスナという人物を知らないキリカはセルリアに質問する。
「奴はワシの学院時代の友人じゃよ。あの隠匿魔法を最初に生み出したのもセレスナじゃ」
「そんなにすごい人なんですね……」
「それでキリはそのセレスナって人に、会いに行くの?」
「本のことが気になるし会ってみたいな。でもどこにいるのか分からないし難しいかもね」
そうキリカが諦めかけていると紅茶を飲んでいるセリルアが手紙を見せる。すると、どこからかフクロウが飛んできた。
「この手紙をセレスナ・クロース、お前のご主人様に渡しておくれ」
フクロウは手紙を咥えるとすぐに飛び去って行ってしまった。
「お師匠様今のって……」
「セレスナの使い魔じゃよ。姿が見えなかっただけでずっと監視されとんたんじゃろうな」
飛んでいくフクロウを見ながらセルリアはそう言って再び紅茶を飲む。
「なんで監視何て」
「ただの推測じゃがその魔導者が原因じゃろうな」
セルリアはちらりとキリカの持っている魔導書をちらりと見る。その表情はどこかこれから起こることを危ぶんでいるようにも見えた。
「あの手紙は遅くとも今日の晩にはセレスナに届くじゃろう。そして明日の朝には返事が届いとるじゃろう」
「それじゃあ今日はこっちに泊って明日、手紙を受け取ってから人間界に帰ってもいいでしょうか、お師匠様」
「明日帰らずそのままここにいてくれてもいいんじゃぞ」
「それは出来ません!向こうで布由が待ってくれてますから」
キリカは少しムッとしながらセルリアにそう告げた。そして茶会が終わり、時間を持て余したキリカは大樹の中にある大図書館へ向かい、魔導書を日が暮れるまで読み漁り始めるのだった。
翌日。朝食を済ませたキリカは外へ出て使い魔の黒猫クロをなでながらセレスナから届く手紙を待っていた。
「本当に今日届くのかなぁ」
そう言葉を漏らすキリカの下に一匹のフクロウが飛んできてキリカの頭に手紙を落とし、あっという間にどこか飛び去って行ってしまった。
キリカはその手紙を手に取り中身を読む。そこにはこう書かれていた。『黒の魔導書を持って人間界へ来てね。あなたの最愛の友人とあなたのお店で待っているわ』
「クロ、今すぐ人間界に帰るよ」
手紙を読んだキリカはすぐに支度をして人間界へ帰っていった。
「キリちゃんからお店に来てって連絡来たけどそっか、今日帰って来たんだ。ちょうどガトーショコラも出来上がったし持っていこっと」
家でガトーショコラを作っていた布由は、スマホに送られて来たキリカからのメッセージを見て心躍らせながら支度を始める。そしてガトーショコラの入った箱を持って森の中のキリカが経営する喫茶店へ向かう。喫茶店に入るとカウンターの奥で和服を着ているキリカが待っていた。
「いらっしゃい布由。急に呼び出しちゃってごめんね」
「キリちゃんのためならどこでもすぐに駆け付けるよ。それとガトーショコラ作ってきたんだ一緒に食べよ」
布由はそのままキリカの前の席に座り箱の中から切り分けられたガトーショコラを取り出した。
「おー!おいしそう」
「今日のは自信作なんだ」
「じゃあ、カフェオレ淹れるからちょっと待ってね」
キリカは慣れた手つきでカフェオレを三人分淹れた。
「あれ、キリちゃん一杯多くない?」
「それはねぇ……あっ、来た来た」
キリカがそうつぶやいた瞬間、喫茶店扉が勢いよく開いた。
「え、嘘……」
そこにはなんと箒と真っ黒な本を持ったもう一人のキリカが立っていたのだ。




