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山姥切殺し  作者: しゅうか
本編
12/16

8.Side長義 バッドエンド

バッドエンドルートです。

Side長義 バッドエンド。

※場所 鬼女の家【表】廊下

※猟師の鍵で開くドアを開ける

※BGM ダンジョン09(不気味なダンジョン)

〔テキスト〕

ドアの向こうには、森が広がっていた。

土で固めただけの狭い道が入り組んでおり、ちょっとした迷路のようになっている。

何度か同じ道を通ったり、行き止まりに突き当たったりしながら進むと、小屋にたどり着いた。

小屋は入り口以外の三方に飾り棚が置かれ、部屋の中央に一人用の小さなテーブルと背もたれのない椅子がある。

生活感はまるでなく、コレクションを鑑賞するためだけの小屋のようだった。

※場所 小屋

※飾り棚1を調べる

〔テキスト〕

ホルマリン漬けされた人間の手が、整然と並べられている。

どれも美しく整っており、ネイルをしたものもある。

※飾り棚2を調べる

〔テキスト〕

様々な虫を飾った標本箱が、整然と並べられている。

どれも色鮮やかで、美しい。

※飾り棚3を調べる

鳥や小動物のはく製が、整然と並べられている。

状態はよく、どれも生きているかと見間違うほどだ。

※テーブルを調べる

【南泉】

なぁ、このテーブルって……。

【長義】

多分お前の想像通り。

この部屋の物を、ゆっくり観察するための物だろう。

【山姥切】

きっと鬼女にとっては、全て玩具でしかないんだ。

人間も虫も動物も――付喪神ですらも。

【南泉】

……山姥切、お前。

【山姥切】

……。

※飾り棚4を調べる

〔テキスト〕

色とりどりの目玉が飾られていた。

その中から「山姥切国広の左目」を見つけた。

〔!〕+長義

【長義】

二人とも、今すぐ戻るぞ!

【南泉】

ど、どうしたにゃ!

【長義】

すべて思い出した。

国広の事も、あの山姥切国広の事も。

つまり、二人は今こちら側に居る。

【山姥切】

…………!

【長義】

早く戻らないと、国広が危険だ。

あの山姥切国広は、恐らくもう限界だ。

※SE ガオー

【長義】

くそ、遅かったか!

無事でいてくれ、国広ッ!


※BGM 散花

〔テキスト〕

 気が付くと、山姥切長義は透明な液体の中を漂っていた。

 液体の向こうを、山の緑が流れていく。

 山そのものではなく、長義を取り込んだ化け物が移動しているのだ。

 ――そうか。俺はまた、何もできなかったのか。

 あの後、家に戻った長義達は怪異と鉢合わせた。

 神域の結解を出現したソレは、鈍色の肌を持つ人型の怪異だった。

 長義より少しだけ背が低く、金色の髪と翠色の右目を持ち、左目がくり貫かれて空洞になっている。

 身長も、鈍色の肌も、髪や目の色も、隻眼であることも、全てがあの山姥切国広と同じだった。

 山姥切国広だったソレは、フードのない白いローブのようなものを着ていた。

 ローブは腹部だけが透明になっており、中が透明な液体で満たされているのが分かる。

 スライム状の怪異、大量の毒虫――化け物が食らったであろうもの達が、液体の中で消化されていく。

 そしてその中に、人間の死体があった。

 首から上がないそれは、服や肌の大半が溶け、肉や骨が露出し、体液や胃の内容物が液体の一部を濁している。

 頭も同様に漂っていたが、もはや性別すら分からないほど破壊されていた。

 それでもその場にいた全員が、それが矢切国広だと瞬時に理解した。

 溶けた胴体の傍で、黒く濁った守り石が寄り添うように漂っていたからだ。

「貴様……ッ!」

「待つにゃ、化け物切り!」

 激昂した矢切長義が木刀を手に駆け出し、南泉一がそれを止めようと後を追うまで、一秒もかからなかった。

「くそっ!」

 長義は、その場に背を向け逃げ出した。

 いくら二人が刀の付喪神であったとはいえ、今は少し霊力がある人間でしかない。

 大量の瘴気で化け物に堕ちた付喪神を相手に、まともに渡り合うことすらできないだろう。

 そして頭に血が上った矢切長義を南泉が引き止め、無事国広から逃げ切れるという楽観的観測も、またありえない。

 さらに悪いことに、今の長義には実体がなかった。

 化け物となった国広を退治することも、矢切長義を力づくで止めることもできない。

 できる事と言えば、逃げて国広を退治する方法を探すだけだった。

 幸い、当てはあった。

 審神者 龍樹(たつき)とその刀達。

 転生した竜樹は怪異退治を専門とした大規模な組織を設立しており、そこにかつての仲間達も多く配属されていた。

 刀剣達の中には怪異に転生した物もあり、戦力を総動員すれば国広を退治することも可能だろう。

 記憶を取り戻した今なら、全員が快く協力してくれるに違いない。

 長義は家の壁をすり抜け、木々をすり抜け、全速力で山を下っていく。

 そうして山を少し下ったところで、国広に捕まった。

 背後から頭を鷲掴みにされ、国広の腹に押し付けられる。

 ローブの透明な部分に、長義の体があっさりと吸い込まれていく。

 そうして気が付けば、長義は国広の体内を漂っていた。

 国広の腹部から外が見える以外は何もなく、透明な液体が果てしなく広がっている。

 そこに溶けた毒虫と怪異が大量に漂っており、それに混じって矢切長義と南泉の姿もあった。

 二人は両手足を伸ばし、虚空を見つめ、微動だにしない。

 瞬きをしているので生きてはいるようだが、彼らが再び戦意を取り戻すことはないだろう。

 不思議と、何の感情も湧かなかった。

 鬼女の思い通りになったことも、国広が化け物になったことも、何もできなかったことも、全てが他人事のように何も感じない。

 何気なく視線を動かすと、自分の手が目に入った。

 皮膚が溶けて剥がれかけており、その下から骨や肉が覗いている。

 全身を確認してみれば、所々同じように溶けていた。

 痛みはなかった。

 恐らくこの液体は、消化液であると同時に麻酔なのだろう。

 獲物の痛覚と感情を麻痺させ、生きながら肉体と魂を消化していく。

 液体は口からも取り込まれているから、内側からも溶かされているに違いない。

 例え脱出できたとしても、竜樹のもとに行くのは不可能だった。

 ――このままじっとしていれば、安らかに死ねるだろうな。

 国広が居なくなってからの日々は、地獄のようだった。

 第一部隊隊長であった国広が消えたことで、副隊長であった長義は自動的に隊長へと昇進。

 国広以上の成果を上げたと自負しているが、まるで国広に成り代わったようで気分が悪かった。

 おまけに本丸のあちこちに国広の痕跡があって、否が応でも彼が居ない現実を突き付けられる。

 自然と、国広の事を考えるようになった。

 本丸ではどう過ごして、誰と仲が良くて、何が好きで、何が嫌いで――今どうしているのか。

 考えても答えは見つからない。

 確かなのは、国広を取り戻せるのは長義だけという事実だ。

 なのに、長義は文字通り何もできなかった。

 下手に国広に固執すれば、勤めを果たせないと処分されかねない。

 それが記憶処理であれ、刀解であれ、国広を取り戻す機会は永遠に失われてしまう。

 だから長義は、可能な限り平静を装った。

 他の皆と同じように国広を忘れたフリをして、愛想笑いを浮かべて、何でもない風に取り繕う。

 同じ美術館に居た昔馴染みには気づかれてしまったが、付き合いの短い審神者達はそれで誤魔化すことができた。

 やがて戦が終わって自由の身になってからは、ひたすら国広を探す日々だった。

 長い年月で実体を失ってからは、戦力も同時に探す羽目になった。

 しかしどちらも上手くいかず、焦燥感だけが募り、心が蝕まれていく。

 このままじっとしていれば、そんな日々を永遠に終わらせることができる。

 長義の肉体も魂も溶けて消えて、完全に消滅するのだから。

「でも俺は、俺を助けに来たんじゃない。

 ――山姥切国広、お前を殺しにきたんだ」

 国広が化け物になることは、あらかじめ予想できていた。

 その時は矢切長義に自らの霊力を渡して前世の力を取り戻させ、南泉と二人で退治させるつもりだった。

 化け物になったばかりであれば、それで十分倒せただろう。

 国広は来世も化け物になるだろうが、その時はまた誰かの手を借りて殺してやればいい。

 それを繰り返していけば、いつかは幸せになる未来だって手に入れるかもしれない。

 しかし矢切長義達がやられた今、その方法はもう使えない。

※SE ガオー

 国広が、獣のような鳴き声をあげた。

 化け物になった以上、国広はもう苦しむことも、悲しむことも、喜ぶこともない。

 何の意思もなく、機械的に生きとし生けるものを食らい続け、その力を取り込んでいくことだろう。

 恐らく、国広はそれを望んでいなかった。

 誰も傷つけることなく、退治されることもなく、神域を永遠にさ迷うつもりだったに違いない。

 国広の役目が人間と歴史を守ることであった以上、少しの犠牲も望まなかったはずだ。

 矢切長義と南泉は、このまま国広に取り込まれ、養分となる。

 それで国広は相当厄介な化け物になるだろうが、まだ人の手に負える範囲に収まるはずだ。

 だが付喪神である長義も取り込まれれば、もう誰も国広を止められなくなる。

 長義は本体である刀を抜くと、骨と肉だけになった両手でしっかりと握りしめた。

『文句も恨み言も、帰ったらいくらでも聞いてやる。

 だから、後は頼んだぞ』

 別れ際の言葉を、今でもしっかりと覚えている。

 そこに、絶望も悲壮も存在しなかった。

 あるのは何がなんでも二人で帰るのだという決意と、長義への信頼だけ。

 だから長義は、それに応えなければならなかった。

 山姥切の刀として、第一部隊副隊長として、山姥切国広の本科として。

 己が己であるために、これ以上犠牲を出さないために、国広の願いを叶えるために。

 長義が外の見える場所まで泳いでいくと、厚い膜があった。

 国広から長義への干渉ができたのだから、その逆も可能である可能性が高い。

 ここを切ることで、外に出られるだろう。

 そして消化液による麻酔は効果を失くし、中途半端に溶かされた体は耐え難い苦痛を訴えるに違いない。

 同時に様々な感情が、鬼女に対する憎しみや、国広を救えなかった無念等が襲ってくるだろう。

 結果、長義は間違いなく化け物になる。

 だがこの日生まれる二つの化け物は、どこかの誰かが退治してくれるはずだ。

 それだけを祈って、長義は国広の体を切り裂いた。


※BGM ピルグリム

〔テキスト〕

『橋那山の調査記録』

 ××××年××月××日

 ××県××市にある橋那山にて、強い怪異の気配が観測されたとの噂を耳にする。

 噂によれば既に何人もの専門家と怪異が調査や討伐に向かったが、皆消息を絶ったとのことだ。

 したがって、怪異の詳細は不明。

 個人的に調査を行うことにした。


 橋那山について

 麓に豊かな田畑を望む、標高一二〇〇mの山。

 自然豊かな山だが、今は禍々しい瘴気に包まれている。

 山頂には橋那山神社があり、そこに続く山道が整備されていた。

 神社は荒らされ、そこに祭られている神の姿はどこにもない。

 件の怪異に襲われた可能性が、最も高いと考えられる。

 また一軒だけ民家が存在したが、こちらも荒らされていた。

 仮に住人がいたとすれば、その者も犠牲になったと考えられる。

 この山において、二体の怪異を観測。

 仮に内一体をアルファ、もう一体をベータとする。

 

 アルファについて

 男性型の怪異で、全長一七二㎝。髪は金色。瞳は翠色。肌は鈍色。左目がなく、隻眼となっている。

 白いローブのようなものを着ているが、腹部が透明で体内を覗けるようになっている。

 アルファの体内では、怪異や人間が透明な液体の中を漂い、消化されていた。

 動物や虫も補食されていたため、獲物は問わないと思われる。

 その霊力は諏訪国審神者 龍樹が所持した山姥切国広に酷似している。

 この山姥切国広は、二二〇九年十一月十五日に消息を絶っていた。

 同本丸の山姥切長義によれば、鬼女によって神域に隠されたらしい。

 したがって、アルファは神域の瘴気で怪異化した山姥切国広と考えられる。

 ちなみに山姥切国広を隠した鬼女は、全国各地の山々でそれらしき姿が観測されている。

 常に居場所を転々としているため、放置されているのが現状だ。

 部隊を編成し、アルファに対し更なる調査を試みる。

 鈍色をした肌は鋼のように固く、こちらが所持していた刀が折れてしまった。

 それ以外の部分は柔らかく、少し霊力を込めれば素手でも傷つけることができる。

 ただし瞬時に回復する上、あまりダメージを与えることができなかった。

 戦闘は一分にも満たなかったが、二名がアルファに食われたため撤退の判断を下す。

 この時一名が囮役を買ったため、計三名が犠牲となった。

 撤退後、囮役となった者から通信が入る。

 発信元はアルファの体内からで、これにより内部の様子を知ることができた。

 アルファの腹部と思われる場所から外界を望めるが、それ以外は透明な液体が延々と続く。

 そしてこの液体には、三つの効果が存在した。

 一つは消化液として、物を溶かす効果。

 もう一つは麻酔として、感情と感覚を奪う効果。

 そして三つめは、どれだけ破壊されても、完全に溶かしきるまで生かし続ける効果。

 これは囮役が、「致命傷を負っているのに死んでいない」という事実からの推論である。

 つまりアルファに食われた場合、生きながらにして、何も感じることもないまま、溶かされていくことになる。


 ベータについて

 アルファと同じ男性型の怪異。

 全長一七三cm。髪は銀色。瞳は瑠璃色。肌は鈍色。アルファと違い、両目がある。

 アルファと同じく白いローブのようなものを着ており、腹部が透明なって内部を覗ける。

 アルファと違い、その中は透明な液体のみがある。

 所々焼けたように肌が黒ずんでおり、痛みを訴えるように泣き叫んでいる。

 その霊力は諏訪国審神者 龍樹が所持した山姥切長義に酷似している。

 山姥切長義は山姥切国広の捜索を行っており、その中で怪異化したと考えられる。

 同じく部隊を編成し、更なる調査を試みた。

 アルファと同様に鈍色の肌は固く、それ以外は柔らかいがダメージを与えることができない。

 ベータは怪異のみを狙い、人間は攻撃されても無視する傾向にある。

 この戦闘により、部隊に配属された二体の怪異が食われた。

 報告によれば、ベータの体内に入った怪異は瞬時に溶かされている。

 二体が食われた時点でその場から怪異が居なくなったため、ベータは我々に興味を失くし去っていった。


 以上が、橋那山の調査結果である。

 私達が訪れた時点で、ふたつの怪異は多くの命を食らい、誰の手にも負えない化け物となっていた。

 幸いふたつの怪異は山に縛られており、山を出る心配は必要ない。

 調査後、私の体に怪異化の兆候が現れ始めた。

 考えてみれば、当然の結果だ。

 私は自らの判断ミスで山姥切達を化け物にしてしまい、彼らにかつての仲間を殺させた。

 そこに山の瘴気を浴びれば、無事でいられるわけがなかった。

 部下の一人が清めようとしてくれたが、怪異化を僅かに遅らせるだけに止まった。

 神仏であればあるいは可能なのかもしれないが、瘴気に当てられるのを懸念され、受け入れてもらえない。

 私は注意喚起として、この記録を各所に通達。

 霊力を持つものが怪異化すると被害が甚大になる恐れがあるため、最寄りの専門家を手配し切ってもらう事とする。

 私を助けようと奔走してる皆には悪いが、何も告げずに逝こうと思う。

 後はただ、アルファとベータが互いに争い、共倒れすることを祈るのみである。

 藤原龍樹

〔テキスト〕

BadEnd2

ふたつの化け物

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