5 狩り
ドドリスや村人からの情報によれば、この森にはかなり多数の獣が跋扈しているらしい。
また、驚くべきことに魔物の目撃情報もあるらしい。
魔王デリスの侵攻により一時は全域を占領されつつあったテレンスをエイギル王の武威により魔物達をデミアスまで退けたらしいが、各地には魔物達の残した卵や死体から発せられた魔素がテレンスの大地に広まっていて、その魔素溜まりから魔物が生まれる場合もあるらしい。
デミアスより飛行可能なドラゴンなどが夜陰に紛れて飛来しテレンスの山奥で根付き、そのドラゴンが発する濃い魔素により多くの魔物が生み出された事も過去100年の停戦中も何度かあるらしい。
それらは、魔王デリスの意図的な侵攻とは違うと判断されているし、テレンスから逃げ出した犯罪者や逃亡奴隷がデミアスに侵入する事もあるらしいが、それもテレンス側からの侵攻と捉える事もなく、お互いの鎖国状態は暗黙の了解の元に大きな摩擦も無く続いているらしい。
魔物。
時間は経っていないのになんて甘美で懐かしい響きだろうか。
やはり俺の眷属は強く逞しく素直な魔物たちであって欲しい。
この森で目撃された魔物はゴブリンらしいが、奥地で見た事があるという噂程度なので、もしかしたら只の猿だったのかもしれない。
それでも、淡い期待を胸から消せずにいる。
とにかく、狩りだ。
まず素人である村人達に武装させて自由に狩りをさせてみた。
結果として、夕刻戻ってきた泥まみれの村人達の成果はウサギ3匹だった。
その3匹も元狩人の男性が2匹と、野盗達が1匹捉えたものだった。
どうやら獣は眷属にならないようだ。
「ふむ、こんなものか…」
「素人に武器持たせて獣を追いかけさせても、足の速さが違います」
狩人の男が提言する。
「なるほどなぁ、お前名前は?」
「ゴローといいます」
「そうか、ゴローどうしたらいい?」
「そうですね、まずは罠でしょう、女子供には簡単な罠を獣道に作らせ、定期的に巡回させかかった獲物の回収を罠の再設置。他の人間には逃げ足の早い獣を罠に追い込む狩りの方法を集団で行わせてはいかがでしょうか?」
「なるほどなぁ、指導を頼めるか?」
「分かりました」
眷属たちは夜も休めず動けるが、夜目が効くわけでは無いので、夜は野盗の使っていた洞窟に篭って作戦会議と成果報告を行う。
ゴローの申し出によりその日より、罠の設置法、獣の特性、などを学ばせた。
「ゴロー」
「なんでしょうか主様」
「熊や狼など危険な獣はいないのか?」
「幸いにして、餌の豊富なこの山で敢えて危険な人間の臭いがたくさんするこの地域にそのような猛獣が近寄ってくる可能性は低いとは思います」
そうすると、俺達がこの地域の獣を狩り尽くした後がどうなるかだな…
40人近い人数で行った鹿の追い込みによる狩りを行うことにした。
全員で夜通し作った蔦を撚り合わせたネットに追い込む狩りだ。
大声を出しながら武器を持って鹿を追い込む。
朝始まった狩りは、夕方にクライマックスを迎える。
疲労しない、食事もいらないという眷属の特性は非常に狩りに向いているようだった。
鹿は精神的にかなり追い詰められるが眷属たちは披露もせず朝から夕方までの狩りを淡々と進めたのだった。
30頭近くいた群れを追い込む最終段階で遂に鹿が決死の行動に出た。
人間の2倍はあるだろう巨体による体当たり、その大きな角による攻撃、眷属の中には弾き飛ばされるもの、角に串刺しにされるものが散見し、その包囲の穴から逃げ出す鹿達。
眷属たちは無我夢中で武器を振り回して突進した。
罠に絡まり身動きが取れなくなった鹿、敵を串刺しにしがらも頭部に武器を振り下ろされて昏倒した鹿など壮絶な光景が繰り広げられた。
成果 鹿 5頭
負傷眷属 30名
小さな村のため、これほど大きな鹿の確保は始めての事らしいが、今まではウサギ20匹でも充分な納税となったらしいので、今回のこの大鹿は1頭でも充分納税してお釣りが来るほどの成果らしい。
負傷した眷属たちの傷口もジュクジュクと血肉が湧きだして、洞窟に帰る頃には全員ほとんど完治していた。
ウサギも罠により順調な成果を上げたようだった。
成果 ウサギ 14頭
その夜、ゴローより肉の保存技術ということで、洞窟内全域を使って、肉の解体、吊り下げ、を行い、燻製を作るため全員が煙の中一夜を過ごした。
今日は遂に税徴収の日だ。
商人ギルドより1台の馬車と共に現れた商人の前にうず高く積み上がった46頭の大鹿、200匹を超えるウサギの肉、それらを目にしたギルドの人間は、運ぶ馬車が足りないと真っ青な顔で慌てて引き返した。
3日後に改めて商隊を組んで戻ってくるとのことだ。
それまでに更なる成果があるだろう事を言い含めて、慌てふためく商人を見送った。




