1 洞窟
鬱蒼とした森のなかをひたすら男の背中を見つめて歩き続ける。
薄汚くちっぽけな背中を息を切らしついて行く。
頭を巡るのは理不尽への怒りと絶望。
バルちゃん…
部下というよりも、征服への道標。
側にいるだけで絶対の安心感。
苦しみと絶望から抜けださせてくれた盟友。
バルちゃんのあの重厚な地響きのような声が懐かしい。
あああああ
「おい、入れ」
「…」
いつの間にか目の前には、森の中に突然現れた切り立った崖、その前の小さな広場。
そして、そこにポッカリと開いている直径5m程の穴。
どこかこの穴を見ると懐かしさすら覚える。
こういう穴から始めたんだよな…
「おい!まさか喋れないのか!?入れよ!」
「分かった」
思ったより声の高い澄んだ響きが俺の喉から発せらせる。
あの重厚な威圧する声は今は無いようだ。
「はっ!気味の悪い野郎だな」
穴に入った俺の後ろから、男の罵声が飛ぶ。
今一度、冷静に考える時間がほしい。
意味は分からないが、
・能力は5つまで。
新たに能力を取得する場合は、既にある能力を切り捨てる。
・配下モンスターは無くなる。
・人間種固定。
・敵討伐後に配下として蘇生可能。蘇生後は眷属となります。
・侵略率 20%を目指せ。
ってことらしい。
相変わらず俺の内なる本能が
「侵略せよ」と叫び続けている。
非力そうな手足を見下ろす。
たかだか5mほどしか無い洞窟内の天井がやけに高く感じる。
身長も2mすら無いだろう。
この身体で「侵略せよ」かよ…
「ルゴック、新入り候補か?」
「おいおい・・使えそうなのかコイツは?」
「親分呼んでくる」
洞窟の奥には、少し開けた場所に、薄明かりの中、大きめの石を椅子代わりに数人の男たちが車座に座っていた。
一人の男がスッと立ち上がると、更に奥の洞窟に消えていった。
親分?
「ルゴック何処で拾った?」
ルゴックと呼ばれた道案内をしてくれた男以上にむさ苦しい男が洞窟の奥から出てきた。
身体は2m程もあり、洞窟内の男たちの中では頭2つ分程飛び抜けた体躯だ。
他の男達がみすぼらしい格好をしてる中で、一人だけ皮鎧を着こみ、右手には1.5mはあろう大きな剣を持っている。
俺の身長よりちょっと短いぐらいの剣を片手で軽々と持っているところを見ると、とてつもない腕力なのだろう。
ちょっと前の俺ならプチッと指先で潰せてしまえただろう男たちが、今の身体と視線から見ると重々しく威圧的に見えてしまう。
屈辱的な気分だ。
「森の中に倒れてたんでさ」
「ほう、で?なんで裸なんだこの男は?既にお前の使用済みか?」
「俺にそんな趣味はねぇっすわ、きっと逃亡奴隷かなんかで、そこいらでスライムにでも飲み込まれかけて服を溶かされちまったんじゃねぇでしょうか?」
「ふむ。おい、お前!逃亡奴隷なのか?」
「…」
「おい、ルゴック!コイツまさか喋れ無いんじゃ?」
親分と呼ばれた男がルゴックを睨みつける。
「違う」
俺が否定の言葉を発すると、全員の視線が俺に集中した。
「違うってのは?喋れるってことか?逃亡奴隷じゃねぇってことか?」
「どちらもだ」
「なんかテメェ偉そうな態度だな?状況分かってんのか?」
親分と呼ばれたむさ苦しい男が、右手の大剣を俺の首筋に軽く当てると、何度か俺の首にコンコンと当てる。
僅かに首が切れ血が流れ胸と腹を濡らす。
今まで味わってきた痛みと比べると痛みという程のものでは無い。
「ほう・・・身じろぎもしねぇとは、肝が座ってるのか、ただ鈍感なだけなのか?まぁいい、とりあえず俺と奥に来い」
「分かった」
何故か突然機嫌が良くなった親分と呼ばれた男が、上機嫌で洞窟の奥に入っていく。
俺もそのあとに続いて入っていく。
「おー!気張れよー!」
「しばらくは座れなくなるかもなー!」
「親分ほどほどにー!」
嬉しそうな野次が後ろから飛んでくる。
まぁ、なんとなく親分という下衆野郎がこれからしようとしてる事が分かった。
洞窟の奥に行くと、ツンと酒の臭いが充満する場所に着いた。
見れば積み上がった藁の周囲に何本も空いた酒瓶が転がっている。
壁際には無造作に箱が積み上がり、血のついた鎧や剣などがアチコチに投げ出されている。
「よう」
後ろから声をかけられ振り向くと、ゴッグッっという音と共に頭部に衝撃が走る。
幸いにも吹っ飛ばされた場所が積み上げられた藁の上だったようで身体には損傷は無いが、頭部には鈍い痛みがジワジワと広がっている。
「まぁ、大人しくしてろや」
皮鎧を脱ぎながら親分が俺に話しかける。
まぁ、予想通りの行動ではある。
自ら見知らぬ存在の前で防御力を率先して下げる行為を黙って見ている。
「なかなか素直で可愛いじゃねぇか」
言われるままに大人しく藁の上にいると、これでもかという笑顔で俺に近づく親分。
何を勘違いしているんだ?
「お!?お!?いいねー!いいねー!」
俺が近寄ってきた下衆の頭に両手を回すと、近づけた口から酷い口臭を漂わせてニコニコしている。
貧弱な腕を下衆の野太い首の後ろでしっかりと組み合わせると、そのまま下衆の柔らかな首に大きく開けた口でガブリと噛み付いた。
ザシュシュシュシュ
ほんのりと口の中に広がる匂いと食感。
「ぐふぉぉスープーぉぐふぁスーふふぁ」
何か下衆が話そうとしてるようだが、喉に空いた穴から空気が漏れ出るのと、口内に湧きだした血流で上手に発音出来ないようだ。
俺はそのまま腕のロックを緩めずに何度も喉の柔肉に食らいついた。
美味いとは決して言えないが、まぁ肉ではある。
喰えなくは無い。
あっという間に動かなくなった下衆。
所詮人間なんて脆い造りだな。
わざわさ急所を「どうぞ」と差し出すようにしてきた下衆の行為が馬鹿らしく感じる。
さて、確か討伐後は眷属に出来るんだっけか?
<ドドリスが眷属となりました>
「主様、ドドリスで御座います」
俺の前に跪く下衆。ドドリスという名前らしい。
ステータスも確認出来るようだ。
名称 花咲く王
レベル 1→2
世界侵略率 10/100
能力
噛みつき 1
…
もう深く考えるのは辞めよう…
さて、では侵略していきますか?




