12 ルロエ
「農業区が?空飛ぶ魔物!?どうなってる!?被害は!?」
領主のルロエ様が冷静に状況報告を聞く。
今年18歳を向かえその美貌は益々磨きがかかっている。
2年前に、父である前領主エリル様を亡くし、母であるローリエ様は病床。
エリル様同様に日に日に衰弱していっている。
幼い頃より、一人娘として両親の愛情を一身に受け、剣技から魔物学やまで幅広く教養を身につけ、13歳を過ぎてからはエリル様の傍で直々に帝王学を学んできた正に才色兼備なルロエ様。
透き通るように水色の髪、深い海のようなブルーの知性の宿る瞳。
絹のようにキメ細やかな肌には一点の曇りも無い。
領主になってからは、天真爛漫さは身を潜め、落ち着いた思慮深い態度を崩さない。
若さゆえに侮ってくる人間もいるが、その深く重厚な声音に押し黙る者も多い。
領主となってからは服装もドレスを着ることは少なくなり、軍服のような服装を好み、髪は結い上げている。
だが、そのような男性的な服装も、ルロエ様の女性としての肉体を隠しきれ無いほどに、衣服の下から押し上げる女性らしさは、抑制ゆえの押さえつけられた爆発力を感じさせられるのは、俺だけではあるまい。
「情報が錯綜しております、とりあえず衛兵の出動により敵は夕刻退却をしたところです。敵数は約200。大きさは小さく子供程度という報告です。空には6mを超える巨大な黒い翼の悪魔がいたとの報告もあり、現在確認中です」
「報告を聞く限り領地内にダンジョンが出来ている可能性が高い。明日から復旧に取り掛かり、農業区には支援金を出せ。怪我の治療は領主権限でこちらで全て見よう。非常時の為、治療院の無料開放と各地より治癒魔術師の招集を!転移魔術師は、半数は各地より治癒魔術師を、半数は各地より討伐戦力を招集してくれ」
「「「「ハッ」」」」
指示を受け数名が駆け去って行く。
非常時の為、恭しい挨拶は無しだ。
「マネスよ資金は大丈夫そうか?」
ルロエ様は流石に憔悴した表情で聞いてくる。
「この一年で飛躍的に税収が増しております。農業区の人的被害及び今年の収穫高への影響は甚大かと思いますが、近くにダンジョンが出来たという事は考えようによっては領地に益をもたらしてくれます。昨年サルシュが発見した小さなダンジョンの収益からこの一年で大きな税収が上がっております。襲撃の規模からすると、かなり大規模なダンジョンが出来ている可能性もあります、領地としてうまく運用すれば今回の被害を考えても、充分な利益を領地にもたらしてくれる可能性もあります。」
「予はあのサルシュという男は好かん。奴隷商人や高利貸しなどと結託し行っている所業をワシが知らぬとでも?」
ルロエ様の発言にドキリとする。
出来過ぎる。
だが、まだまだ甘い部分もある。
俺がサルシュから貰っている賄賂までバレている?
いや、それは無い、偽名で作った隣町のゴウト商会を経由して巧妙に賄賂を受け取っている。
仮に発覚しても、サルシュの実態を調査するのに信用を得る為、受け取らざるを得なかったなどと、どうとでも言い繕える。
崩れそうになる表情を取り繕い話を進める 。
「確かに酷い男です。今回の魔物の襲撃でもこの機に便乗し、戦災孤児や豪農亡き後の無領地農家を権利や私的武力を持って、都合良く私物化し金に変えていく事も間違い無くするでしょう。しかし、現実を見ればそれも必要悪。言い換えれば、今回の被害で領主側が抱えきれない大量の浮浪者予備軍を迅速に処分し、金に変え税として納める。そういう存在があるがゆえ、復興もより迅速に行えますし、資金の負担も少なくなります」
「ふむぅ、それは分かっていなければならんな。領地運営をする上では、サルシュのような輩も清濁併せ呑むしかないか…」
素直で順応力が高いところはルロエ様の美点だ。
「それに、今回の被害者の治療にはサルシュ商会によって寄付された治療薬が大変役立っておると報告が入っております」
「まるで、自分の悪事を塗りつぶすかのように善行をアピールしてくる奴だな。ますます好きになれん」
治療薬の実態を知ったらもっと嫌悪するだろうな。
俺がサルシュから聞いたところでは、その治療薬、元々はダンジョンで採れた薬草から抽出した汁を蒸留して作り出した原液で売り出す予定だったらしい。
ところが、試験段階であまりに濃度が濃すぎると強烈な副作用が出るため、現在では30倍まで水で薄めたものを販売しているらしい。
正にぼろ儲けだ。
副作用の詳細を聞こうと何度も問い詰めたのだが、決して口を割らなかった。
俺の推測するところあれは回復薬や治療薬ではない。
副作用と言っている効果が本来の効能で、
実際には希釈することによって副作用的に人体を修復しているに過ぎない。
高濃度で摂取すれば本来の効能を発揮し、人体に何らかの変異をもたらすのではないかと考えている。
前領主エリル様が高濃度のサルシュの治療薬を摂取して間もなく亡くなられた。
その亡骸は密葬という形で葬られ、まことしやかに流れる噂ではその死の間際には人間とは思えぬ奇声を発し病室は散乱し、エリル様は異形となられたなどと聞く。
とにかくサルシュとはそんな薬で莫大な富を築くような男だ。
「資金の心配が無いのならば、ギルドにも情報を流せ!ダンジョン攻略の報酬をしっかり出して、その後、ダンジョンを領地の資源として産業を生み出す事も可能かもしれん」
ルロエ様がそう命じたときだった。
「俺は報酬なんていらないゼッ!」
突然、広間に転移してきた男性が声を発する。
見れば横には転移魔術師がいる、さっそく討伐戦力の第一陣の到着のようだ。
それにしても、男と共に転移してきた人数、その数5人全員が女性。
そして、全員がルロエ様級の美女ぞろいだ。
「急な呼び出しにも関わらず、即座の討伐依頼の引き受け誠にありがとうございます。正直、討伐隊の到着は、数々の交渉を経た後になると思っていたので、一つ返事でこの場に駆けつけて下さった貴達方に改めて、感謝の意を。ありがとうございました。ところで、報酬がいらないとはどういう事ですか?」
無礼な男にも、討伐隊への礼儀を欠かさずしっかりと挨拶するルロエ様。
「この地区で絶世の美女と言えばルロエさん、あんただ。そんなあんたから討伐依頼だと?これを駆けつけずして何が男か!率直に言う!俺のハーレムに加われとは言わん!一晩よろしく頼むわ!」
この無礼者、即刻衛兵に拘束させ、生まれてきた事を後悔する様な苦悶の末に処刑してやろう。
「すまんが、これでもこの地を預かる領主として、そのような願いを易々と受けるわけにはいかんな。それに、同行の女性達にとっては、報酬の方が必要だろう」
失礼な男にも冷静に対応するルロエ様。
あきらかに挑発しているだろう男に、18歳にしてこれだけ堂々とした対応が出来る、そんなルロエ様が俺は誇らしい。
「私達は、イクイゴさんに付いて行くだけ、そしてそこに敵がいれば殲滅する」
イクイゴと呼ばれた男の右側に陣取る黒髪長身のダークエルフの美女がそう答える。
「そうそう、イクちゃんの欲望を叶えるのも私の喜びだもん」
左側に陣取る金髪のサラサラの髪をしたどこぞの女王を思わせる優雅さを持った女性がイクイゴにしな垂れかかってそう言った。
イクイゴ?
「ダンジョン落とし」のイクイゴか?
転移魔術師め、とんでもない奴を連れてきてくれたな。




