表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理想の孤独死【百十話 完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/110

第九十一話 伊藤 一

 十一年前、私はLPTにSEとして入社した。それが緊急対応部への転属となったのは、入社四年目の二月だった。まさか自分が、死者を扱う最前線に放り込まれるとは思っていなかった。ただそれほど抵抗感はなかった。

 私は二十歳の夏、長く透析を続けていた父を、三十歳の夏、母をくも膜下で失っていた。少し遅めにできた子供だったので、小さい頃は可愛がってもらった記憶がある。それが変わったのは、十歳の頃、父の腎臓病が分かってからだった。既に症状は進んでいて、二年後には人工透析となった。幸い職場の理解もあり、優秀な人でもあったので仕事は続けられた。しかし、週三回の透析を含め、身の回りを世話する母は変わった。

 社交的というタイプではなかったが、好きな音楽を聴いたり、流行りの映画を観に連れて行ってくれるような人だったが、すっかり別人になった。そして、事あるごとに、


「あなたのお父さんは、いつ死んでもおかしくないのよ」


と言うようになった。子供の私は、父が死ぬ、ということが怖かった。暫くすると、お母さんも、田舎にいる、優しいお爺ちゃんも、お婆ちゃんも死ぬことに気がついた。私の中で死が広がった。そして気がついた。自分も死ぬことに。

 (死んだら焼かれる)ということはもう分かっていた。頭に浮かんだのは、学校の裏にある、焼却炉と灰色の灰だった。黒白が入り混じった小汚い灰。自分がそうなるのだと思うと涙がぽろぽろ落ちてきた。何もかもを失って、そんな灰になるなんて信じたくなかった。押入れの湿気を含んだ、冷たく重い布団に、死の匂いを感じた。

 最初から分かったわけじゃない。本物の死体を見るずっと前の話だ。でも、ある時、気がついた。それが死の匂いだということに。その頃から、私は時々、人の言葉に匂いや色などを感じるようになった。それを別に不思議には思わなかった。だから誰にも話さずにいた。

 多分三か月位、昼間は呑気な小学生をやりながら、私は毎晩泣いていた。先生はもちろん、友達にも話すこともせず、ただただ泣いていた。

 そして泣かなくなった時、小学生の私は、


「何をしようが最後は死ぬ」


という結論に達していた。もちろんこの結論を誰かに話すこともなかった。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は本日の21時ごろの更新を予定しています。


よろしければブックマーク、星の評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ