第八十一話 コントロールルーム
警備室に誰かがいれば、モニターに映るその奇妙な光景に目を奪われただろう。
そこには四十七階を登りきった二人の男が映っていた。先を行く主任も、同行した部下もフラフラで膝が笑っていた。それでも登り切ったという充実感と、責任感が彼らを動かしていた。
しかしコントロールルームの前に辿り着いた彼らを驚かせたのは、そこに二人の警備員がいたことだった。それは八番リフトに閉じ込められていたはずの大竹と宮田だった。
「お、お前たち、なんでここに?!」
息を切らし、凄い形相で現れた主任に驚きながら、少し背が高い大竹が答えた。
「なんでって、主任の指示じゃないですか?」
「そうじゃなくて! お前たち、エレベーターに閉じ込められていたんじゃないのか?!」
「え?! それってなんの話ですか?」
「お前らが八番リフトに閉じ込められるのを見て、俺たちはここへ来たんだよ」
そう言ったのは今にも吐きそうな顔をしている、不幸な主任の同行者だった。
「いやいや、俺たちは普通にエレベーターを使ってここに来てたよ。もう……十分くらい前になるかな?」
宮田のその言葉に、主任が悪かった顔色をさらに悪くした。
「この中に、誰かいるのか?」
「分かりません。自分たちが来た時には閉まってました。自分の権限ではここのロックは解除できませんし」
主任が慌てて自分のIDを扉に近づける。
ピピッというエラー音が返って来た。
「どうしたんですか?」
そう尋ねる宮田に、主任は少し苛立たしげに答える。
「上級管理者が内側からロックを掛けている」
「じゃあ、中に誰かが?」
それには答えず、主任は緊急事態のプロトコルに従って、一時的に自分の権限を強化する手続きを端末で申請していた。小さな画面の中で、水色の髪をしたアイラが微笑むと、「承認」という文字が表示された。
一度息を整えた主任は、三人に目配せするとベルトから警棒を引き抜き、腕を一振りする。カシュンという音とともに、五十センチほどに伸びた。グリップのボタンを押すと、パチパチっという音と共に先端部分が青く輝いた。すぐに残りの三人の手にも同じものが現れた。
その様子を確認した主任が、もう一度、IDを扉に近づける。
ピッという短い反応のあと、扉が開く。主任を先頭にコントロールルームに飛び込む。しかし、そこには誰もいない。
怪訝な表情であたりを見回す。空調が効いた広いコントロールルームには、モニターやキーボードが並び、ガラスの向こうには無数のサーバーが静かに稼働していた。しかし飛び込んできた四人以外に人の気配はなかった。
無人のコントロールルームに、ピピッ、ピピピッという音が響く。主任が肩にぶら下げていたレシーバーだった。慌てて受信した彼の耳に聞こえたのは、地下のサブコントロールルームに向かった塚田の声だった。
「主任! やっと出てくれた!」
「なんだ?! どうした」
「こっちこそです! さっきからずっと呼びかけていたんですよ!」
「なに?!」
「それよりも、サブコントロールルームに侵入されました!」
「なんだと?!」
「男二人、女一人です。ただ人相は情報とは違います!」
その時、主任の頭に浮かんだのは、
「目を皿のようにして見回れ」
という堤の言葉だった。その時彼は悟った、モニターに映る、エレベーターの映像と情報はフェイクだったのだ。怪しげな三人組はここではなく、地下のサブコントロールに向かっていたのだ。
その時、ガチャンと扉がロックされる音がした。
佐藤が彼らを閉じ込めたのだ。
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