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理想の孤独死【百十話 完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第七十一話 盾

 画面には一瞬ブラウザーが映ったが、次の瞬間、


「LPT Security Alert: Code Omega」

「不正なデータ送信の試みを検知しました」


と表示されると、そのまま操作ができなくなった。


「どうしたんですか?」

「分からない。確かにリンクは起動したはずなのに、この画面は……」


 私が言い終わらないうちに、男の声がその質問に答えた。


「LPTの『盾』が起動したんだよ」


 声の主は上杉だった。私たちがやってきた道の反対側から数人の部下を連れて現れた。後ろには、どこかで見かけた顔もあった。本社で会った佐藤由美だった。


「上杉CDO……?!」


 上杉は、私の驚きを無視し、苦々しい表情で続けた。


「だから(実行するな)とメッセージを送ったんだ。君が起動したことで『盾』、LPTのクローラーが、今この瞬間も、ネット上に田中の遺したデータを消し去っている!」


 私は、上杉が何を言っているのかが理解できなかった。ただ彼の声が、怒りに満ちていることは嗅がなくても分かった。


「まったく、馬鹿なことをしてくれたものだ。こうなった以上、君にも責任を取ってもらう。我々と一緒に来てもらおう」


 有無を言わさぬ口調だった。私と長谷川は、なすすべもなく上杉が連れてきた男たちに囲まれ、山道を下り始めた。私たちが掘り出した田中のガジェットも、部下によって回収されていた。

 十五分も歩くとアスファルトがある道に辿り着いた。どうやら地図には載っていない国有林の保守用道路のようだった。彼らはその道を使い、先回りをしていたのだ。そこにはエンジンをかけたままの黒い大型バンが二台と、後部が大破したAMGが止まっていた。

 上杉が、そのうちのバンの扉を開け、


「乗りたまえ。話は中でする」


と言った。

 長谷川が動くのをためらった。恐らくゲートの前に停めたままの愛車を心配したのだろう。それに気づいた上杉が、事務的な口調で言った。


「君の車は、あとで私の部下に君の自宅まで届けさせる。もちろんここで乗らずに一人で帰るという選択肢もある」


 彼女は、静かに上杉へ向き直ると、


「……同行します」


と言った。上杉は小さく頷くと、先にバンに乗り込んだ。佐藤がそれに続く。

 長谷川が近づいてきた男に、自分の車の鍵を手渡した。


「マニュアル車ですから気を付けて。傷つけないでくださいね。絶対に」


 彼女はそう言うと、私より先に、迷いのない足取りでバンに向かった。

 私は、鍵を受け取った男に見覚えがあった。数時間前に長谷川のインプレッサと猛烈なカーチェイスをしたAMGの運転手だった。彼は神妙な表情で受け取った鍵を見ると、バンに乗り込む長谷川の後ろ姿をじっと見ていた。私は彼女に続いて乗った。


 車内は二列目と三列目が向かい合うようになっていて、上杉と佐藤が二列目に、私と長谷川が三列目に座った。重いスライドドアがボスっという音とともに閉められた。


「本社へ。急いでくれ」


 上杉が背後の運転手に短く告げると、バンは静かに走り出し、やがてぐんぐん加速していった。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。


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