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理想の孤独死【百十話 完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第六十八話 QR

「なによ、これ!」


 長谷川の声がしんとした森に吸い込まれた。私は自分の血の気が引くのを感じていた。それでも立っていられたのは、彼女に対する申し訳なさが上回ったからだ。


「長谷川さん、すまない」

「謝らないでください!」


 再び森が彼女の声を吸い込んだ。


「私は自分で望んでここにいるんです。だから謝らないでください」


 彼女は自分を落ち着かせるようにそう言うと、最初にやろうとしたこと、地図アプリを立ち上げて座標を確認した。しかし、そこに表示されたのは、私のスマホと同じ数字だった。


「同じだね」


 私は力なく呟いていた。どこかで何かを間違えたのか? 天井の星空と壁紙の画像は同じものだったのか? 画像は正しくてもAIが解析を間違えたのか? そもそも本当に田中はこの座標に何かを遺したのか? 疑い出すときりがなかった。さすがにショックを受けている長谷川の姿を見ると、再び強い自責の念が溢れてきた。やっぱり彼女を巻き込むべきではなかったのだ。これほど強烈な後悔を感じたのは人生で初めてだった。

 彼女が謝罪を望んでいないことは分かっていた。それでも今は、他に言葉が浮かばなかった。


「長谷川さん、全部僕のせいだ……」


 そう言おうとした瞬間、彼女が口を開いた、


「伊藤さん!」

彼女は大きく目を開き、私の背後を指さした。慌てて振り返った私の目に、この谷間にようやく届き始めた陽の光と、それに照らされる岩があった。

 その岩肌に、鮮やかに輝くQRコードが浮かんでいた。

 それはまるでずっとここで、自分と同じ血脈を持つ者が見つけてくれるのを待っていたように見えた。


「時を超えて遺るもの。それは巨石に刻まれた過去からのメッセージ」


 その呟きに、長谷川が驚いた顔で私を見た。


「グレンガーディアン、第五〇話『時を超えた、兄弟星の証』。田中の書いた二次創作の一編だ……」


 この話で主人公たちは、エジプトのピラミッドの奥深くに、地球とゼルムの母星・ゼラが兄弟星であることを示すメッセージを見つける。それは、アステリアの侵略から逃げ延びた僅かな人々が太古の地球に辿り着き、地球人を助けて造らせたピラミッドに刻んだ、時間を超えた彼らの物語だった。


「……田中氏、あなたは本当にどうかしている」

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は本日の21時ごろの更新を予定しています。


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