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理想の孤独死【完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第五十二話 秩父へ

 車は十分ほど猛スピードで走ったが、次第に速度を落とし、周りの車と馴染む程度になった。その間、長谷川はずっと喋らなかった。私は火事のショックからは立ち直りつつあったが、その気迫に押されて口が効けなかった。

 さらに十五分ほど走り、都心部から外れ郊外に差し掛かったところで、ようやく長谷川が口を開いた。


「……なんであんなことしたんですか?」


 声の静かさが怖かった。


「あ、いや、これ以上君を巻き込めないと思って」

「もう十分私は巻き込まれてるんですよ!」


 予想通りの台詞だった。しかし、その鋭い怒気は、想像を遥かに上回っていた。

 私はなんとか話題を変えようと、


「でも、どうしてあそこに来たの?」


と聞いたが、長谷川はピシャリと、


「他に行く場所なんてないでしょ!」


と言うと、


「どうして一人で行ったんですか?!」


と再び追及してきた。観念した私はノロノロと答えた。


「ああ……、僕一人なら捕まっても死んでもあれだけど、長谷川さんはやっぱり……」

「私、言ったでしょ! もし伊藤さんが一人で死んだら。伊藤さんが大事にしてたもの、大切に思っていたものは、私がきちんと次の誰かに繋げていきますからって」

「……ああ、そうだったよね」


 もちろんそれは覚えていた。ただ正直、今の私には言い回しが複雑でよく理解できなかった。また、それだと結局一人で死んでいいようにも思えた。場合が場合だけに、少し迷ったが、その旨を伝えることにした。

 長谷川は一瞬言葉に詰まったが、それを糊塗するように大きな声で、


「違います! そういう意味じゃないです。『もし一人で死んだら』です。だから一人じゃ死なせないってことです!」


 かなり苦しいような気がしたが、助けられたのは事実だったので、それ以上は何も言わなかった。

 改めて彼女の姿を見ると、この間、深夜にファミレスに呼び出した時と同じ格好をしていた。一度自宅に帰ってから着替えて来たのだろう。ただフードが少し煤けて、顔にもところどころに煤がついていた。その姿を見て私は改めて、


「ごめん」


と言った。長谷川は少し口をつぐんだあと、


「もういいです、……で、これからどうするんですか?」


と聞いてきた。そこで改めて事務所の中であったことを話した。天井に隠されていた星空のこと、そしてその画像をUSBメモリーに入れたこと、ドアにロックが掛かって火が点いたことなどだ。話し終わったところで、USBメモリーが刺さるPCが必要なことに気がついた。


「長谷川さん、PCってある?」


 運転しながらちらっと私を見ると、


「そんなこともあろうかと思って持ってきました。後ろのバッグの中にあります」


その声にははっきりと分かるドヤ顔成分が含まれていた。またそれが、あるアニメの名台詞であることにも感動していたが、今はさすがにその話はしなかった。私は礼を言うと体を捩って、後部座席にあるバッグを取ろうとした。そこでチャイルドシートがあることに気がついた。

 長谷川は、バックミラーでその様子を見ていたはずだが何も言わなかった。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は本日の21時ごろの更新を予定しています。


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