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理想の孤独死【完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第四十一話 チラシ

 【セキュリティ警告:未知のデバイスが本機を経由して、外部への不正なアップロードを試みています 0.2s】


 私はいきなり現実に引き戻された。LPTがこのPCに侵入しようとしているのだろうか! しかしどうやって? 少し落ち着いて警告を見直すと、このPCに何かをしようとしているわけではないことが分かった。田中の件以来、セキュリティーを見直した私は、周囲の通信を監視するソフトを起動させていたのだが、どうやらそれに引っかかったらしい。

 警告内容からすると、この近くにある何かが、私のPCを踏み台にして、このマンガ喫茶のWi-Fiにデータをアップロードするのを検知した、ということだ。また、その接続時間が〇.二秒であることを考えると、極めて小さなものだ。問題は、どこから発せられているかだった。

 私は改めて身の回りを改めた。机の上には私のノートPCと田中のノート、そしてチラシがある。

 もう一度チラシを手に取った。事務所で最初に感じた時と同じく、普通のチラシよりも微妙に固く厚い。肉眼では見えないが、田中はここにあの特殊なプリンターを使って何らかの電子回路を印刷しているはずだ。

 五分ほど明かりに透かしたり、指で弾いたりしてみたが、所詮は素人で、分かるはずもなかった。諦めてチラシを田中のノートの上に置く。(関係ないのだろうか?)と思った時、またPCの画面に同じ警告メッセージが表示された。

 (田中のノートと反応しているのだろうか?)そう思って離してみたが、暫くすると、また警告メッセージが現れた。ノートとの距離は関係ないようだ。次にチラシを足元の鞄の中に入れてみた。すると今度はいつまで経っても警告メッセージは出ない。試しに鞄から出して机に置いてみると、また警告メッセージが現れた。そのまま置いておくと、約七分周期でこのチラシが、極小さなデータをアップロードしようとしていることが分かった。どうやら、このチラシは光を蓄電して起動しているようだ。そのため、鞄に入れたり、ノートに挟んだりするとアップロードが行われないらしい。

 私はこの大発見を早速、長谷川にメッセージで伝えた。彼女はひとしきり感心したあと、


(で、チラシからは何が送られているんですか?)


と聞いてきた。分からなかったので、そう送ると、


(じゃあ、どこに送ろうとしているんですか?)


と聞いてきた。私のPCからWi-Fi回線にアップロードしようとしているのは確かだが、どこに行くのかは分からなかった。仕方がないので、その旨を書き送る。数秒後、


(分かりました。今日はもう寝てください。明日は地方出張で早いですから。おやすみなさい)


というメッセージと、猫が枕を抱えて、(おやすみなさい)と書かれているステッカーが送られてきた。

 私はグレンガーディアンの寅次郎が、おしりを向けて寝ている姿に(おやすみなさい)と書かれたステッカーを送った。

 長谷川の塩対応は予想の範囲内で、それよりもチラシの謎が少しでも解けたことが嬉しかった。また誰かにお気に入りのステッカーを、送れたことも地味に嬉しかった。


 寝る前に田中のノートとチラシを見る。ふと思い立って、ノートを鞄に入れると、チラシの方は、鞄に入っていたLPTのパンフレットで二重に包み、折り曲がらないようにしてジャケットの内ポケットに入れた。何かあった時にノートと一緒にしていないほうがリスクが減ると思ったからだ。

 明日は長谷川が言う通り、朝から群馬に行くので早く寝なければいけない。それに今夜はいつもよりよく寝られる気がしていた。眠るまでの僅かな間、私は鞄に入れていた本を読むことにした。クララという、アンドロイドが登場する話だった。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。


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