第三十九話 ゲーム
「……先生。CEOは、私たちがやろうとしていることを、どの程度把握しているとお考えですか?」
僅かな沈黙の後、ため息混じりに上杉が答えた。
「分からない。疑いを持たれているのは確かだが、どのレベルで把握しているかは分からない。……ただ、私が絡んでいる以上、それなりに深刻なものであるということは承知していると思う」
佐藤の声に、疑念が混じる。
「以前から疑問なのですが、なぜCEO、堤は、伊藤氏はともかく、先生や私たちの動きを察知しながら放置しているとお考えですか?」
上杉は少し考えたあと、
「自信があることは間違いないが……、彼にとってはゲームなんだろう」
「ゲームですか?」
上杉の視線が何かを探すように宙に彷徨った。やがて彼は、机に肘をつき両手を顔の前で組むと、静かに話し始めた。
「……初めて彼に会ったのは、中学生になったばかりの頃だった。親父さんに連れられて、私もまだ四十歳の中頃だった。大人しい子でね、一筋縄ではいかない警備業界で一代で成り上がった、強面のお父さんとは随分印象が違ったよ。お母さん似だったんだ」
佐藤は黙って聞いている。
「ただ引き合わされたものの、私は子どもがいないのでね。だから彼ぐらいの子どものいる部下に興味を持ちそうなゲームを用意してもらったんだ」
そこで彼は、自分が不用意な話題に踏み込んだことに気づいた。一瞬、佐藤を見る。その様子に、変化がないことを確認してから続けた。
「ところが彼は、それに興味を示すことはなかった。そこでどんなゲームが好きなのか聞いてみた。すると彼は、『生きていることがゲームです』と言った」
怪訝な顔をした佐藤に、上杉が薄く微笑む。
「男子中学生というのはちょっと捻くれる時期だからね、最初は何かの小説や哲学書の影響を受けたんだろうと思ったよ。彼は『このゲーム、人生は、最後はどうせ死んで何もかも失うルールです。そこに生きる理由があると思いますか?』と言った。また随分シニカルな思想に染まった子だなと思ったよ。そこで私は『じゃあ、君の生きる意味はなんだい?』と聞いてみた。彼は即答したよ『生きる意味なんてありませんよ。だって、このゲームのルールがそれを許さない』と」
その声からは、僅かにあった昔を懐かしむ成分が消えていた。
「『どんなに意味があると思ったことも、大事な人も物も、最後は離れ離れになって、消える。それがこのゲームの結末です。理不尽なルールですが、それは絶対です。みんなも最初からそれが分かって参加しているのに、気がつかないふりをして生きている』と――」
ギュッと組まれた指の関節が白くなる。
「そして彼はあの笑顔で言ったよ。『だから、僕のやるべきことは一つです。このゲームに参加している全てのプレイヤーを、このルールに従わせることです』と」
上杉は話しながら少し慄えていた。ややあって佐藤が口を開いた。
「……『生きていることがゲーム』ですか?」
「そう。だから彼は障害を恐れないし、失うことも恐れていない。むしろ楽しんでいる」
「そんな理由で、私たちの動きを黙認していると? さすがにそれは……」
「佐藤君、私が本当に恐れているのはね、果たして、私が彼にとって脅威となれているかだ」
「……では、既に私たちのことを承知していると?」
上杉が沈黙する。やがて、それを振り払うように言った。
「今度の日曜日に決行する」
佐藤が一瞬息を呑む。
「堤が香港に出張するタイミングで、アイラとコアサーバーを奪取する」
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次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。
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