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理想の孤独死【完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第三十三話 電話線

 思わず声を上げた私に、長谷川が驚いた様子で尋ねてきた。


「どうしたんですか?」

「パソコン通信だ!」

「……私、パソコンとか詳しくないんですけど、それってインターネットと違うものなんですか?」

「違う。今のインターネットは分散型と呼ばれるもので一台一台のPCやサーバーがお互いに繋がり合っているんだけど、パソコン通信はホストコンピューターと呼ばれる一台のPCに繋がる中央集権型だったんだ」

「はあ」


 明らかにピンときていないようだった。私は頭の中で、できるだけ彼女に分かる言葉を探した。


「今との大きな違いは回線なんだよ。今は光とかモバイルといったネット専用回線を使っているんだけど、パソコン通信の頃は電話回線を使うのが主流だったんだ」

「電話」

「そう、電話。だから回線を塞いでいると親に怒られて。夜のテレホーダイとか……」


 そこで横道に逸れていることに気づき、慌てて口を閉じた。口で説明することを諦めた私は席を立ち、改めてBeBOXの背面を確認した。予想通りRS二三二Cポートには懐かしいモデムが繋がっていた。しかし、肝心なそこから先がなかった。


「どうしたんですか?」


 急に立ち上がった私に驚いた長谷川の声を無視して、私はここにあるべきものを探し始めた。返事をしない私に苛立ったのか不安になったのか、彼女が私の後をついてきた。


「伊藤さん、なんなんですか!?」


 その声を無視して部屋中をウロウロする。その後を長谷川もウロウロとついてきた。それは机の下の床から出ていた。


(あった!)


 四つんばいで机の下に潜り込み、お目当てのものを見つけた私は、先日と同じく仁王立ちに立つ長谷川を見上げてそれを見せた。


「これ!」

「なんですか、それ?」


 それは床から伸びる白いコードだった。


「電話線」

「え?」

「電話線だよ、電話に使う」

「……それが?」


 説明するよりも見せたほうが早いと思った私は立ち上がり、先端のモジュラージャックをモデムに接続して席に戻った。


「こうやって電話回線とPCを繋ぐことで、田中はどこかに接続していたんだよ。電話回線はアナログだからLPTの監視網も回避できる。完璧な方法だよ! なるほど、この手があったのか!」

 電話線を繋げて興奮する私に、長谷川が静かに尋ねた。 電話線を繋げて興奮する私に、長谷川が静かに尋ねた。


「……それで、その接続しているどこかって、どこですか?」


 (どこだろう?)確かにパソコン通信である以上、繋がるのは不特定多数の相手ではなく、登録されているホストだけだ。そう思ってスクリプトの中身をもう一度見直すと、そこにはホストが都内であることを示す〇三から始まる電話番号があったが、それ以上のことは分からなかった。確認するためにはファイルを実行するのが確実だが、誰だか分からない相手に繋げることには躊躇があった。用心深い田中が最近まで使っていたものであれば、安全性は確保されているように思えたが、それでも迂闊に実行はできなかった。


「どうしたんですか?」


 少し心配そうな長谷川に私は説明をすることにした。


「どうやら田中はこの古いPCを使って、どこかにアクセスしていたみたいなんだ。さっきも言ったけど、アナログの電話線を使った方法なら、LPTの監視を無視して通信やデータのやり取りができる。だけど、それは誰か特定の相手とだけなんだ。で、その相手が誰なのかが分からない」


「……それって、知らない人に電話をかけるみたいなものですか?」


「そう、その通り」

「それ……、ちょっと怖いですよね」

「うん」


 そこで沈黙が広がった。暫くして、長谷川が口を開いた。


「やってみたらどうですか?」


 堅実派の長谷川にしては珍しかったので、私はちょっと驚いた。


「田中さんは三か月前までこれを使っていたんですよね? それに今の話だと、LPTの監視網に引っかかる恐れは絶対ないんですよね?」


 私は頷いた。


「今ここで他に調べるところもないんですよね」


 確かにそうだった。ここまでSDカードや現金、UVライトのパーツ、大量のプリンターと大量の謎のチラシといったものは見つけたが、LPTに関する資料は無かったのだ。この部屋で今残っているのは、目の前の古いPCの役割だった。


「……やってみようか」


 長谷川が、


「大丈夫ですよ、きっと」


と言った。微妙な言い回しが気になったが、その声には暖かな気配があった。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。


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