第四話 部屋 一
古びた階段を私、渡邉、長谷川の順番で上る。いずれも深夜の仕事に配慮した靴なので、ほとんど音はたてない。行き届いた配慮だが(泥棒のようだな)と思う。目指すドアには2Bという表示しかなかった。
私はコンコンコンと、小さくドアをノックした。渡邉が怪訝な目で見ているのが分かった。もう慣れている長谷川は、つまらなそうに自分のつま先を見ているはずだ。もちろん返事はない。ドアノブに手をかけ、カメラに自分の右目を近づけると、カチッという小さな音がして鍵が開いた。LPTの職員は、担当契約者の部屋であればどこへでも入れるのだ。部屋の主が死んでいれば。
ドアを開けると同時に部屋の明かりが灯った。靴を脱ぎ部屋に上がる。狭い玄関は、部屋主の革靴と我々三人の靴で埋め尽くされる。バッグが転がった短い廊下の先の部屋で男が寝ていた。近づくと、胸に当てられた右手の下から小さなアラームが聞こえた。天井を見回し、部屋の隅にあるカメラが動いているのを確認する。
「こりゃ、お宝がありそうですね」
私は渡邉のその言葉を無視して、玄関で長身を屈めて脱ぎ置かれた靴を並べている長谷川に声をかける。救急隊員の処置を二人で見守るのがルールなのだ。彼女が私の横に並んだところで渡邉に声をかけた。
「お願いします」
渡邉は持ってきた頑丈そうなケースから手袋を出して着けると、胸に置かれていた男の腕をどかした。次にバーコードリーダーに似た機械を取り出し男の胸に当てると、小さなモニターに「match」という表示が出た。素早くそれを確認すると今度は聴診器を取り出しまた胸に当てる。虫のように素早く、無駄のない動きだ。五秒ほどそのまま心音がないことを確認すると、今度はペンライトを見開いた男の目に当てた。
私は入社当時この手順を馬鹿馬鹿しく思っていた。胸に仕込まれたチップやカメラからの情報で、彼らが死んでいるからここに呼ばれたのだ。しかし、それなりにキャリアを重ねるうちに違う感想を持つに至った。
これは人がこの世から亡くなるという事実にともなう儀式なのだ。
それが長かろうと短かろうと、その生に報いるための儀式はあってしかるべきだ。
そしてこの手順は葬式とは違い、金持ちも貧乏人も、善人も悪人も、年寄りでも若くても、人種や性別に依らず、あらゆる人間に平等に施される儀式だ。そう思って眺めることで、私は近すぎず、遠すぎない、自分なりの死者との距離感が取れるような気がしていた。
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