第四話 田中の部屋 一
金属製の古びた階段を、私、渡邉、長谷川の順番で上る。いずれも深夜の仕事に配慮した靴なので、ほとんど音はたてない。行き届いた配慮だが、(泥棒のようだな)といつも思う。すぐに目指すドアの前に着いた。2Bという部屋の表示はあるが、名前を示す表札はない。
私はコンコンコンと、静かにドアをノックした。渡邉が怪訝な目で見ているのが分かった。もう慣れている長谷川は、つまらなそうに自分のつま先を見ているはずだ。返事がないのを確認して、ドアノブに手をかけ、カメラに自分の右目を近づける。ピッという音とともに、カチッという小さな音がして鍵が開いた。LPTの職員は、担当契約者の部屋であればどこへでも入れるのだ。部屋の主が死んでいれば。
静かにドアノブを回して開けると、同時に部屋の明かりが灯った。靴を脱ぎ、部屋に上がる。狭い玄関は、部屋主の汚れた革靴と、我々三人分の靴でたちまち溢れた。玄関には起き捨てたようにバッグが転がっていた。白々としたライトに照らされた部屋の奥に、男が寝ていた。コートを着たままの姿で、右手が胸の上に置かれていた。
部屋に入り男に近づくと、その右手の下から、小さなアラームが聞こえた。天井を見回し、部屋の隅にあるカメラが動いているのを確認する。後ろから入ってきた渡邉が、奥に眠る部屋の主を軽く一瞥すると、部屋を見回した。
「こりゃ、お宝がありそうですね」
私はその声を無視して振り返る。長谷川が長身を屈めて、脱ぎ置かれた靴を並べている姿が見えた。
「長谷川さん」
そう声をかけると、小さく頷いた彼女が部屋に入ってきた。救急隊員の処置を二人で見守るのがルールなのだ。私の後ろに長谷川が来たところで、渡邉に声をかけた。
「お願いします」
男の手の下で、胸に埋め込まれたLGI(Life Guard Implant)のアラームが小さく鳴いていた。




