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理想の孤独死【百十話 完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第三十五話 侵入

 結局、自宅近くの牛丼屋で食事を済ませて帰った。ドアを開けると自動で明かりが灯る。玄関で靴を脱ぐ時になぜだがいつも左の靴がひっくり返る。いつものことなので、そのまま気にせず部屋に入ると、照度を落とした暖色系の光の中に、暮らし慣れた部屋が浮かび上がっていた。田中のノートの秘密を見つけて以来、ずっと張り詰めた緊張感があった。この部屋のソファで値落ちしたことがきっかけなのを考えれば、ここがすべての始まりなのだが、それでも自分の部屋は気分が落ち着く。

 窓際にはSE時代に自宅作業用に用意したデュアルモニターと、無骨なタワー型のPCが収まったラックがあり、壁の本棚には様々な本が並んでいる。その本棚と壁の隙間に、薄い布がかけられた箱のようなものが置いてあった。もちろん中身は知っている。引越しの度に処分すべきか迷い、結局まがここにあった。中に入っているのは灰色に汚れた毛布だ。そこにはまだ彼の黒い毛が残っていた。鼻の奥がツンするのを感じて、慌てて目を逸らす。胸の奥で震えた昏くて重い水面が鎮まるのをじっと待つ。


 ようやく気持ちが落ち着いたところで、反対側の壁にあるディスプレイを見る。

 そこには私の密かな自慢であるフィギュアを納められていた。その種類は様々だが、中心に鎮座しているのは『超空豪神グレンガーディアン』のフィギュアたちだ。本放送当時に発売された『超合金』から、数年前に出されたガレージキットまで、あらゆる種類のグレンガーディアンが並んでいる。当然キャラクターも並び、それぞれに象徴的なポーズを決めている。


 1号機パイロットの響勇気は拳を突き上げ、必殺技「グレンブレイカー」を叫ばんとするメインキャラらしい躍動感あふれるポーズ。2号機パイロットの剣司ハリソンはスコープ付きのアサルトライフルを肩に下げ、勇気のやや後方にいることで参謀感を出している。田中の部屋にあったもののバージョン違いだ。3号機パイロットの葛城さゆりは、扇を持った両手を左右に広げ、優雅に舞っているように見える。ツンデレキャラの始祖とも言われるが、この姿は背の高さもあり神々しい感じだ。4号機パイロットのマリア・シウヴァは、秘伝の武術「竜神拳」の構え。ブラジル感のある笑顔と、放送当時よりさらに強調された胸が眩しい。5号機のパイロットは葛城太郎。チーム最年少である彼の頭には、トラ猫の寅次郎が乗っている。地球側の登場人物の最後に控えるのは、司令官であり勇気の祖父でもある響謙造。白髪に髭を蓄え、両腕を組み、厳しい表情で正面を見据える。六十七歳とは思えないがっしりした体格で、眉間の皺がいかにも頑固そうだ。


 もちろん揃えているのは地球側キャラだけじゃない。新旧のグレンガーディアンを挟んで並ぶのはスカル星団側のキャラだ。まずは「もう一人の主人公」と呼ばれ、後のアニメーションの「悪役キャラ」の描き方に影響を与えた司令官ゼルム。侵略者でありながら自らもまた非征服者であり、アンドロイドのクララと母との間で苦しむ彼は、抜き身の剣を下げている。ハーフマスクの隙間から覗く表情には、怒りとも悲しみともつかない、深い葛藤が浮かんでいる。その横には本作の「真のヒロイン」とも言われるアンドロイドのクララだ。ゼルムの少し後ろから、彼をやや仰ぎ見るように佇んでいる。憂いに満ちた瞳に、母性的な優しさが宿る造形師渾身の一品だ。その横にはスカル三将軍が並ぶ。豪傑漢のゼーレは巨大な戦斧を肩に担ぎ、知将のハインツは指揮棒を片手に、口元には残忍な笑みを浮かべている。「不思議キャラの元祖」とも言われるメーデは両目を閉じ、星の声を聞くかのように天を仰ぐように両手を広げている。異形の科学者ゲルク博士は、右手に得体の知れない肉片を持ち、左手に持った不気味な色の試験管を恍惚の表情で見ている。そして彼らの後ろに控えるのが、アニメーション史上最凶とも言われる悪役・女王アストリアだ。巨大な玉座に座り肘掛けに片手を置き、青い指先で顎を支えながら、冷たい微笑みを浮かべ、眼下に並ぶ全てのフィギュアを睥睨している。敢えて他のフィギュアよりやや大きめのスケールのものを並べているので、その存在感は圧倒的だ。

 いずれのフィギュアも、私が何年も掛けて集めたものを微調整を繰り返し配置にした完璧な状態で、あらゆる角度から見ても画として完成している。毎日見ているのに見飽きない。彼らを眺めている間は、この数日の出来事が忘れられた。

 ところが暫く眺めているうちに、妙な違和感があった。

お読みいただき、ありがとうございました。


完結後に修正をしています。


よろしければブックマーク、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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