表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理想の孤独死【完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/41

第三十四話 プラン

 これは、LPTが生体チップの埋め込みを発表した時からある陰謀論の一つだった。こうした疑惑に対してLPTは、「生体チップは、そもそも生体情報を読み取る受信専用のセンサーであり、チップから電気信号や物質を送る機能はついていない」と公式に答えていた。

 またチップのファームウェアのアップデートに際しては、「厚生労働省のAI医療監督局と、国際的な非営利監査法人による確認と承認を得てから実行するものであり、LPTが契約者に対して不利益な事象を与える可能性はない」としている。

 なにより彼らが強調したのは、「蘇生処置を望まない『マイディグニティ』契約の場合は、生体チップの固有IDが暗号処理されたうえ、AIが自動処理しているため、必要がない限り分からない」ということだ。つまり、LPTも契約者本人も、誰にどのチップが埋め込まれているのかを把握しておらず、亡くなった時に、初めてチップのIDと契約者の紐づけが明らかになるというわけだ。

 この紐づけの有り無しは加入するサービスによって異なり、チップを通して健康管理を希望するサービスの場合は、最初からチップの固有IDと契約者は紐づけされている。この場合、契約者の生体情報は二四時間LPTでモニターされ、緊急事態はもちろん危惧すべき事象や変化などはもちろん、希望すれば生活習慣や食生活の改善、ダイエットのためのトレーニングプランまで作ってくれる。


 実際、わざわざLPTに「マイディグニティ」で契約したうえで、自分のチップを手術によって抜き取って検証した者も現れ、その結果を動画配信サイトで公開したこともあった。その結果、生体チップにはLPTが公にしている以上の機能はなく「シロ」ということになった。

 もちろんそれで陰謀論がなくなることはなく、現在でもゴースト・サーキットの存在については一定の支持者がいる。いつの時代も存在しないことを証明するのは不可能だ。ちなみに検証を試みた猛者は、後でLPTから契約違反行為を問われて契約を解除されている。まあ動画の方は随分バズったので、悪くはない結果だったのだろう。

 いずれにしろ、百歩譲ってLPTが取っている活動ログには改竄の可能性はあっても、生体データへの改竄は不可能な仕組みとなっているのだ。


 とはいえ、以前であれば、陰謀論として一笑に付していたが、田中のノートを読んだ後となると事情が違った。陰謀論者が言う通り、実は生体チップになにか仕掛けがあり、それを使って堤は田中を殺したのだろうか? 青木の顔がまた頭にちらついた。しかし、そこまで計画的であれば、そもそも緊急担と救急を呼ばず、それこそ闇から闇へ葬ってしまうことも可能なような気がした。


「大丈夫?」


とマスターが声をかけてきた。不意に黙り込んでしまった私を心配したようだ。その声には、先程までのトタテグモっぽいイメージとは違い、暖かなコーヒーの香りがした。私は慌ててお礼を言うと、財布から現金でコーヒー代を支払った。通常は社用のスマホを使い経費で落とすのだが、今は少しでもLPTと距離を置きたかった。もっとも私の居場所についてはスマホのGPSで筒抜けなのだが。


 「昭和」を出たところでどうするかを考えた。時間はもう十八時近くだった。いつもならこのくらいの時間であれば、一度会社に帰ってから帰宅するのだが、今日は疲れていたのと、ノートの件以来、会社に居る気がしなかったので、そのまま直帰することにした。

 スマホの社員専用アプリを立ち上げると、AIの公式キャラ・アイラが表示された。私はそのまま耳に当てると、画面がオフになり電話モードになる。


「LPT練馬のMYK六八八七N、伊藤です。本日はこのまま直帰します」


と言った。本当は画面を見ながら話してもよいのだが、私はどうもそれが苦手で、耳にイヤホンを入れたハンズフリー通話もできなかった。道を歩きながら、大きな声で独り言を言っているような姿にはいつまで経っても違和感があり、それを自分がやるなんてとてもできなかった。


「お疲れ様です、伊藤さん。本日は車の利用はありませんので、そのまま直帰とのことで了解しました。またこちらでは、伊藤さん宛てのメッセージは預かっていません」


 今さらながらAIに「お疲れ様です」と言われるのは不思議な感じがする。ふと長谷川のことが気になった。


「長谷川さんからは何かある?」

「長谷川玲奈さんは本日は午後半休です。特にメッセージはありません」

「そう、分かった。ありがとう」

「はい、失礼します。お疲れ様でした」

 そう言って電話が切れた。

 私はどこかでご飯を食べて帰るか、それともなにか買って帰るかを考えながら駅に向かって歩き出した。


※※※


【LPT ガーディアンサービス ― あなたの未来に、確かな選択を】


ご挨拶


 私たちLPT(Life Preservation Technologies)は、最先端のテクノロジーを通じて、皆様一人ひとりの人生が、最後の瞬間まで尊厳と安心に満ちたものであるよう、お手伝いをする企業です。

 体内に埋め込む超小型の生体チップ「LGI」が、二十四時間三百六十五日、あなたの健康と安全を見守ります。私たちは、あなたの価値観に合わせた、三つの異なるプランをご用意いたしました。


■プランA:MyDignityマイディグニティ


― 最期の瞬間まで、あなたの意志とプライバシーを絶対的に守る。


ADNR法(事前蘇生拒否指示の保護法)に基づき、あなたの「尊厳ある死」を迎える権利を最優先するプランです。


・プライバシー保護:

 あなたの生体データと個人情報は、死が法的に確定するまで、完全に匿名化されます。LPTのシステム上、我々でさえ、ご存命中のあなたの身元を知ることはできません。

・対象となる方:

 ご自身の最期の迎え方を、ご自身の意志で明確に決定したいと考える方。

・主なサービス:

 ADNRの法的登録サポート

 死が確定した後の、迅速なご遺体の保全・お引き取り

 ご遺言に基づいた、遺産の管理・執行


■プランB:Guardian Basicガーディアン・ベーシック


― 普段は静かに。万が一の時には確実にあなたを助ける。


 あなたのプライバシーを最大限に尊重しつつ、緊急時のセーフティネットを提供する、バランスの取れたプランです。


・プライバシー保護:

 あなたの生体データは、生命に関わる重大な異常(転倒、心停止、意識不明など)を検知するまで、匿名で監視されます。

・対象となる方:

 普段の健康管理は自分で行いたいが、突然の事故や病気が不安な方。

・主なサービス:

 転倒・意識不明・心停止などを自動検知

 異常検知時にのみ個人情報を開示し、救急隊やご家族へ自動通報

 死後の遺品整理サポート(ELMD)


■プランC:Guardian Premierガーディアン・プレミア


― 最高の技術で、あなたの健康的な毎日を、一日でも長く。

 LPTのAIと専門家チームによる、世界最高レベルの予防医療・生涯健康管理サービスを提供する、最上位プランです。


・プライバシー保護:

 最高のサービスを提供するため、ご契約者様には、生体データと個人情報を常に紐付けて、LPTのAIが分析することに同意していただきます。

・対象となる方:

 病気の予兆を早期に発見し、一日でも長く健康な人生を送りたいと考える全ての方。

・主なサービス:

 AIと専門家による、完全オーダーメイドの健康指導:

 あなたの生体データに基づき、専属のAIトレーナーが最適な運動メニュー(パーソナルトレーニング)を作成。管理栄養士が、日々の食事内容を分析し、ダイエットや健康改善のための具体的な指導を行います。提携するレストランやスポーツ施設、クリニックなどを、優先的にご利用いただけます。

 日々のストレスレベルや睡眠の質を分析し、メンタルヘルスに関するアドバイスも提供します。

・AIによる長期的な健康データの傾向分析:

 将来の疾病リスク(脳卒中、心筋梗塞など)の予測と、月次のレポート提供。

・プランA・Bの全サービス:

 もちろん、万が一の際の緊急通報(プランB)や、ご希望される場合の尊厳死サポート(プランA)などの全てのサービスが含まれています。


 あなたの人生は、あなたのものです。

 LPTは、あなたが選んだ生き方と、最期の迎え方を、テクノロジーの力で支えます。

 さあ、どの未来を選びますか?

お読みいただき、ありがとうございました。


次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。


よろしければブックマーク、星の評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ