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理想の孤独死【百十話 完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第二十九話 部屋 六

 田中の部屋は最後に見た時から、ほとんど変わっていなかった。違いがあるとすれば、ベッドの上で青い布に覆われていた彼の姿がなくなったくらいだ。


 私は小さな声で「お邪魔します」と声をかけてから靴を脱いだ。長谷川がきれいに整えたままの田中の靴の横に、ひっくり返った私の左の靴が転がる。ちらっと天井に据え付けられたカメラが動いているのを確認した。

 壁際に据え付けられた本棚には、相変わらず沢山の本とフィギュアが並んでいた。私はフィギュアを一つひとつ手に取り眺め始めた。

 実は田中の行動ログには、週に二〜三回の頻度で「本棚とフィギュアの清掃と調整」という記録があった。本当は監視カメラの映像を確認できれば早いのだが、一般的な病死の場合、担当者が確認できるのは死から二十四時間以内で、それも相当な事由をAIに提出した上で許可が必要だ。この辺りの契約者のプライベート保護についてはLPTはかなり厳密で、生体データに異常がない限り、担当者であっても監視カメラの映像を見ることはできない。

 したがって今回のようなケースでは申請をしても許可は下りず、余計な注意を惹くのが関の山だった。こうして一人で部屋を訪ねていることもイレギュラーではあったが、コンビの長谷川はちゃんと早退の申請を出していたし、契約者の遺品について担当者が再確認することは通常の業務範囲だった。


 それは剣司ハリソンの台座に仕込まれていた。

 下からキャラクターを照らせるようにLEDライトが仕込まれているのだが、スイッチを押してもライトが光らない。電池ボックスを開けると、黒い布に包まれた鍵が出てきた。布はとても極めが細かく滑らかで、素材は分からないが、どうやらこれがLPTのドローンのサーチを掻い潜るための仕掛けなのだろう。

 私は自分の背中でカメラに死角を作ると、その鍵を右手の袖口に滑り込ませた。

 やり慣れないことなので緊張したが、なんとか成功させると、今度は袖口から鍵が滑り落ちないように注意しながらフィギュアを元の位置に戻し、次のフィギュアに掛かる。本当はすぐにでも部屋から飛び出したかったが、それから五分ほどかけて残りのフィギュアも確認した。その間にも鍵が滑り落ちそうになる度に、頭を掻いたり腕を伸ばすふりをして防いだ。カメラにどう映って、AIがどう解析するのかが心配だ。


 一通り終わったところで、鍵をズボンのポケットに落とそうとするが、今度は袖口に引っかかりなかなかうまくいかない。それでもなんとか成功させると、スマホで確認を終えたフィギュアを撮影する。これで後で何か聞かれても、「フィギュアの価値評価の確認をしていた」と言える。スマホの画面に映った剣司は、ガッシリした体でアサルトライフルを構え、十八歳という設定には見えなかった。ちなみに髪は見事アフロヘアだ。

 大仕事を終えて玄関に戻ると、ひっくり返った靴を急いで履く。


 (終わった!)と思った瞬間、突然ドアが開いた。

お読みいただき、ありがとうございました。


完結後に修正をしています。


よろしければブックマーク、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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