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理想の孤独死【完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第二十三話 ニュース番組『NIGHTLY FOCUS』特集VTR原稿

【スタジオ】

メインキャスター: 「……『NIGHTLY FOCUS』、今夜の特集は、一冊の小説から始まった、静かな、しかし確かな社会現象です。作者は都内で派遣社員として働き、48歳で誰にも看取られずに亡くなった女性。彼女が遺した日記のような私小説が、今、多くの女性の心を掴んでいます。今夜は本作を紐解くことで、現代社会に横たわる孤独と、そこに登場した巨大テック企業のビジネスモデルについて特集します」


(VTR開始)


特集「死後に生まれたベストセラー、小説『声のない部屋』が問うもの」


ナレーター:「都内のカフェ。多くの人がスマートフォンに目を落とすなか、数人の女性が、静かに一冊の本を読み耽っている。その手の中にあるのは、今、異例のベストセラーとなっている小説、『声のない部屋』だ」


(映像:書店の文芸書コーナーに平積みになった『声のない部屋』。白を基調とした、ミニマルで美しい装丁)

街頭インタビュー(20代女性):「……あ、私のことが書いてある、って思いました。特別なことなんて何もない、ただ過ぎていくだけの毎日の中で、感じていた不安とか、小さな喜びとかが、全部そこにありました。読んでて、一人じゃないんだなって……」


ナレーター:「作者は、故・高橋美咲氏。大手企業の派遣社員として働き、昨年、自宅マンションで病死した。彼女の死を最初に検知し、遺品を管理したのは、彼女が契約していたIT企業だった」


(映像:データセンターのイメージ映像。無数の光の線が流れていく)


ナレーター:「高橋さんの死後、このIT企業のシステムが彼女が遺した数冊のノートを発見。それは、誰に見せるでもなく、ただ日々の想いを綴った、日記とも、小説ともつかない、私的な文章の断片だった。無数のテキストの中から、AIが見つけ出したその『記録』は、一人の担当者の元に届けられ、その文学性を見出されたという」


LPT著作権管理部書籍課 担当者 前田小春氏インタビュー:

前田氏:「やっぱり初めて読んだ時は衝撃でした。もうただひたすらに誠実な、一人の女性の内面の記録で。誰かに読まれることを意識したような、技巧的な表現は一切ないのが新鮮で、だからこそその言葉の一つひとつが、現代を生きる私たちの心に、直接響いてくるのだと思います。特に同世代の私には刺さるものがありました」

聞き手:「AIによって発見されたと聞きますが」

前田氏:「はい。大量のテキストから、AIが可能性があると判断したものを、私たち人間が確認するようになっているんです。AIも万能ではありませんので。最後はやっぱり人の手でということに、自分なりに自負を持って臨んでいます」

聞き手:「こうしてベストセラーになったことを率直にどう感じてらっしゃいますか?」

前田氏:「やっぱり驚いています。私自身この仕事をしていて、同じような形で故人様の作品を世の中に出すお手伝いをさせていただいていますが、そのなかでも今回の作品はどちらかというと地味で、ストーリーがあるわけでもないので、こんなに多くの皆さんから共感を得られるとは思っていませんでした。ですから本当に驚いています。(カットが入り続く)先日ご遺族様にも改めてご挨拶をさせていただいて、著者である高橋さんにもご報告をさせていただきました」

聞き手:「ご遺族は、高橋さんがこちらのサービスに加入していることをご存知なかったそうですね。

前田氏:「はい。私もお伺いした時に知りました」


(カット入る)


聞き手:「もし、こうして自分が残した文章が、出版され、話題になっていることを聞けたなら、高橋さんはどんな風にお返事されると思いますか?」

前田氏:「(少し沈黙)……、多分喜んでくれているのかな、と思います。そうであって欲しいですね……」


(映像:文芸評論家・大江弘明の書斎でのインタビュー)

文芸評論家:「――現代文学が失いかけていたものを再発見させられた思いです。この作品には声高な主張も、奇抜なストーリーもない。しかし、都会の片隅で、誰にも注目されずに生きる一人の女性の、その内面の微細な揺らぎを、これほどまでに誠実でみずみずしい言葉で捉えた作品を私は他に知りません。これは、市井に生きる女性が生み出した現代の奇跡と言えるように思います」


(映像:生前の高橋美咲氏が住んでいたと思われる、ごく普通のマンションの外観。夕暮れの空)


ナレーター:「ただ、誠実に生き、そして書いていた。そんな一人の女性が遺した言葉が、なぜ今、これほどまでに多くの女性の共感を呼ぶのか」

街頭インタビュー(別の30代女性):「みんな、どこか孤独なんだと思います。SNSで繋がっていても、本当のことは誰にも言えないし……。この本は、そういう、声に出せない気持ちを、全部肯定してくれる気がして」


(映像:再び、カフェで本を読む女性。彼女は、本から顔を上げ、窓の外の景色を、何かを思うように静かに見つめている)


ナレーター:「生前、彼女は誰にも注目されることはありませんでした。しかし、その死をきっかけに、巨大IT企業の見守りシステムを通じて、彼女の残した文章は、無数の共感者たちの元へと届けられた。本書が多くの女性の胸に刺さるのは、現代社会が抱える、見過ごされてきた孤独の深さを、改めて我々に突きつけているのかもしれない」


(VTR終了)


【スタジオ】

メインキャスター:「……静かに日々を淡々と生きた一人の女性の静かな人生。そして、その死後に公開された内面の告白と、そこから生まれた他者との繋がり。私も読ませていただいたのですが、本当に淡々とした文章で、男性の私にも、すっと自然に胸に抵抗なく染み透る、その一方で、なにか非常に重いものを突きつけられたような感想を持ちました。解説の佐藤さんはこの現象、どうご覧になりますか」

解説委員 佐藤:「ええ、非常に現代的な現象だと思います。私はまだこの本を読んでいないのですが、すみません(笑)。一方で、やはり考えなければならないのは、こうした『死後ビジネス』とも呼ばれる、故人のプライベートな記録を、企業が商業的に利用することの是非ですよね。最近ではこうした故人が遺した著作物や音楽、映像作品を企業が死後に作品化して、そこから話題作が登場するというのがひとつのパターンとして定着しつつあるように思います。確かにそうした中から優れた作品が出ているのは事実です。しかし、そこで踏みとどまって私たちが考えなければいけないのは、たとえそれが素晴らしい作品であったとしても、そこにある倫理的な問題は、常に残ります」

メインキャスター:「そうですね。その点については担当したIT企業によりますと、今回の高橋さんのケースを含めて、公開する作品は全て、生前の契約、遺言の中で、『自らの創作物が死後公開されることを強く希望する』という旨の意思表示が明確に記されていたものに限っている、ということですが」

解説委員 佐藤:確かに本人の明確な遺志があった、もちろんなければ許されることではないわけで、それは非常に重要な点ですね。そうした意味では、企業が故人の『最後の願い』を叶える執行人としての役割を果たした、という側面は確かにあるでしょう。その一方でやはり、一人の女性が遺した最もプライベートな魂の記録が、巨大なビジネスになっているという現実については、私たちはもう少し、センシティブになる必要があると思いますね」

メインキャスター:「確かにそうですね。(メインカメラに向き直り)この『声のない部屋』は既にドラマ化され、この春には映画として公開が決まっているそうです。そこには現代に生きる女性にとってリアルで切実な思いがあるからでしょう。本作品のヒットは、そうした私たちの社会が抱える普遍的な問題、孤独とどう向き合うのか、といったテーマとともに、それがこうした形で死後公開されるという時代にあって、そのビジネスモデルがどういう風に進んでゆくのか注視していく必要がありますね。

 今晩の特集は『死後に生まれたベストセラー:小説『声のない部屋』が問うもの』でした。続いてはスポーツのコーナーです」


(カメラが切り替わり、軽快な音楽とともに女性アナウンサーが登場)


女性アナウンサー:「はい、注目の水島選手。今日も魅せてくれました!」

お読みいただき、ありがとうございました。

次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。


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