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理想の孤独死【完結済み21.5万文字】  作者: Shimizu Atsushi


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第二十二話 調査 三

 そこには行動に対する特別なアラートはなく、プラモデル好きの老人の一日が繰り返されているようにも見えた。

 しかし、一か月、三か月、半年、一年、二年とログを摘んでいくと、幾つかの行動パターンが見えてきた。

 なかでも気になったのは、部屋の電気を消して、手元のLEDライトのみを点灯させて作業している時間が定期的にあることだ。恐らくこの時に田中はあのノートに書き込みをしていたのだろう。これだけであればAIは行動の異常を検知していたはずだ。しかし田中はプラモデルの組み立てなどの細かい作業をする際に、必ず部屋の電気を消してLEDライトを点けるという行動を繰り返すことで、AIに「緻密な作業をする時のパターン」と学習させ、異常行動として検出されることを回避したようだった。


 改めて机に置いた、自宅から持ってきた田中のノートを見た。

 ノートを読み終わって改めて万年筆を調べたところ、確かにこのライトの光だけに反応する特殊なインクが入っていることが分かった。確認したわけではなかったが、恐らくこのインクは、田中がLPTのスキャンに発見されないように、調合した特殊なものなのだろう。

 田中がLPTの監視の目を盗みつつ、この部屋で告発文を書いていたことは、ほぼ間違いない。しかしあの文章を書くには裏付けとなる膨大な資料があるはずなのだが、部屋からはそれが見つからなかった。唯一ログからLPTという単語が出てきたのは、動画サイトの視聴履歴からだった。

 田中はLPTに限らず陰謀論マニアだったようで、宇宙人や古代文明、金融支配、オカルト、政治的なゴシップなど、様々な陰謀論動画を観ていた。そのなかにはLPTによる世界支配を主張するチャンネルもあった。確認してみると「トシミツ.SU」という人物が主催する「Darkside of LPT」というチャンネルで、本人は登場せずCGで作られた美少女アバターがLPTの秘密について語るという構成になっていた。音声も加工されており、動画は一か月に一度程度の頻度でアップされていた。数字や企業の名前、技術的な話が多く地味なためか、チャンネル登録者数は他の陰謀論サイトに比べ少なく、コメントも少なかった。

 ただ内容については田中のノートと符合するところも多く、多少の違いはあれど田中が影響を受けていることは明らかだった。

 それでも今のところは、グレンガーディアン好きなLPT陰謀論に染まった老人が、異常な警戒心で書き残した文章に過ぎなかった。


 長谷川が再び声をかけてきたのはそんな時だった。


「本当に顔色悪いですよ」


 私はなんと答えるべきか頭の中で答えを探した。まさか何を悩んでいるかをそのまま言うわけにはいかないので、「うん、まあ」といった返事を繰り返すことになった。

 そのうち長谷川が目ざとく机の上にあったノートを見つけた。


「あ、そのノート。まだコンテンツ部に送ってなかったんですか?」

「ああ、うん。ちょっとまだ読み込めてなくて」

「あのロボットアニメの二次創作なんですよね。そんなに時間を掛けることがあるんですか?」

「あー、意外にレトロブームだからね。特に昭和のものは、今若い人の間でも注目されてるから」

「確かにそうみたいですけど……」


 何か適当な言い訳を考えているところにスマホが鳴った。表示を見ると本社の緊急対応部統括課の代表からだった。渡りに船と長谷川に着信を知らせると、不満げな様子で去っていった。


 その様子を見ながら電話に出ると、女性の声で、


「もしもし、こちらLPT練馬、緊急対応部の伊藤さんの携帯でよろしかったでしょうか?」


と尋ねてきた。本社の統括課に顔を出すことは時折あったが、この女性の声に心当たりはなかった。まあ着信表示がそうであるのならそうなのだろう。私は、


「はい、そうです」


と答えた。女性は極めて事務的な口調で、


「明日午前十時に、本社の受付まで来てください。名前を言えば担当の者が案内します。ご了解いただけましたか?」


と言った。モニターの予定を見ると通常勤務で、担当の中の誰かが死ななければ問題はなかった。


「あー、緊急対応がなければ大丈夫です。念の為ですが統括課ではなく受付に行くんですね? どんな要件か伺えますか?」


と尋ねた。大抵のことがメールとネットミーティングで済むなかで、本社からの呼び出しというのは私を緊張させるのに十分だった。しかし答えはにべもなく、


「それは明日担当者から直接お伝えします。それではよろしくお願いします」


という返事で通話は切られた。

 その一方的な対応にさすがに「なんだよ」と画面を見るが、(通話終了)という表示があるだけだった。長谷川がこちらを見ているのが分かったが、そのままPCに向かい、その日はやり過ごした。

 幸い誰も死ななかったので、不審そうな顔をした長谷川に、明日の本社立ち寄りを告げると、ノートを持って定時で帰宅した。

お読みいただき、ありがとうございました。

次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。


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