第二十二話 調査 三
見る限りAIによる特別なアラートはなく、プラモデル好きの老人の日々が記録されているに過ぎなかった。
ただ、ほぼ毎日部屋の電気を落とし、手元のLEDライトを点灯させてプラモデルを作っている時間があった。恐らくこの時にノートを書いていたのだろう。実際に完成させたモデルを売っていたことを含め、AIに「プラモデル制作中のパターン」と認識させることで監視の目を逃れていたようだ。
改めて机に置いたノートを見る。今のところ告発文が書かれたインクが反応するのは、このライトの光だけので、恐らく通常のスキャンでは読み取れない特殊なものなのだろう。改めて自宅ですら気を許さず、日々自分の行動を偽装し続けていた田中の執念に狂気すら感じる。
一方でこれほどの文章を書くために必要な資料が、蔵書を含めてどこにも見つからなかった。唯一行動ログに引っかかったのは動画サイトの視聴履歴だ。田中はLPTに限らず陰謀論好きだったようで、宇宙人や古代文明、金融支配、オカルト、政治的なゴシップなどの様々な陰謀論動画を観ていた。そのなかで田中が熱心に見ていたのは、「トシミツ.SU」という人物が主催する「Darkside of LPT」というチャンネルで、本人は登場せずCGで作られた美少女アバターがLPTの秘密について語るという番組だった。動画は一か月に一度アップされ、内容は数字や技術的な話が多く地味で、チャンネル登録者もそれほど多くはなかった。ただ内容はノートと符合することがあり、田中が影響を受けているのは明らかだった
それでも今のところは、LPT陰謀論に嵌まったグレンガーディアン好きの老人が、被害妄想で書き残した文章に過ぎなかった。
「本当に顔色悪いですよ」
振り返るとまた長谷川が立っていた。その言葉には本当に誰かを心配している香りがあった。一瞬、曖昧な返事ができず言葉に詰まったところで、彼女が目ざとく机の上のノートを見つけた。
「そのノート、まだコンテンツ部に送ってなかったんですか?」
「あ、あ〜、うん。ちょっとまだ読み込めてなくて」
「あのロボットアニメの二次創作なんですよね。そんなに時間を掛けることがあるんですか?」
「まあ、いまは昭和ブームだからね。念の為にちゃんと読もうと思って」
「確かにそうみたいですけど……」
何か適当な言い訳を考えているところにスマホが鳴った。表示を見ると本社の緊急対応部統括課の代表からだった。渡りに船と長谷川に着信を知らせると、不満げな様子で去っていった。
電話に出ると相手は女性だった。
「もしもし、こちらLPT練馬、緊急対応部の伊藤さんの携帯でよろしかったでしょうか?」
「はい、そうです」
「明日午前十時に、本社に来てください。受付で名前を言えば担当の者が案内します。ご了解いただけましたか?」
突然の本社からの呼び出しに半ばパニックになりながら予定を確認する。
「あ、明日は緊急対応がなければ大丈夫です。……あの、どんなご要件でしょうか?」
「それは明日担当者から直接お伝えします。それではよろしくお願いします」
そう一方的に告げられると通話は切られた。長谷川がこちらを見ているのが分かったが、それに応じる余裕はなかった。このタイミングで本社から呼び出されたことへに腰が抜けていたのだ。
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