第二十話 末尾の文章
このノートに書いたことは堤の陰謀の一端を示すものでしかない。それでも読めばことの深刻さが分かるはずだ。私のLPT・堤の陰謀に対する完全な告発と証拠はあまりに膨大であり、このノートに記したのはあくまでもダイジェストである。
私は自分が持つ、知識と技術の全てを使うことで、LPTの監視の目を掻い潜り、その非道な陰謀のほとんど全てを掌握することができた。
一方で私は致命的といっていいミスを犯してしまった。
もともと私がわざわざLPTと契約したのは、敢えて自分から進んで彼らの監視下に身を置くことで、私の存在を隠せると思ったからだ。これは成功し、彼らの裏をかく完璧な方法で、情報の収集を行うことができた。
私はそうして集めた情報をもとに、堤の陰謀を暴く告発文と、膨大な証拠をネット上で公開することを企図した。しかしそれはできなかった。なぜなら私が飛び込んだ彼らの檻は想像以上に強固なものだったからだ。
これが判明したのは、告発文の公開に先立って行なった、シミュレーションによってだった。私は外部の施設のPCを使って、彼らにとって深刻な情報が含まれたデータをアップした。もちろん秘匿化ツールを使った上でだ。ファイルはごく小さなものでアップロードは数秒で終わるはずだったが、それが終わることはなかった。
進捗を示すバーはたった二パーセントを超えたところで止まり、次に現れたのは、LPTからの警告画面だった。
驚いた私は、即座にPCをシャットダウンし、その場を離れた。この件で、彼らがネット上に予想以上に強力な監視網を敷き、危険と判断したものを即座に排除できるシステムを構築していることが分かった。また彼らが、私の胸に埋め込んだチップから位置情報を把握していることを踏まえると、この件で、彼らが私に対して疑惑の念を抱き、監視対象にした可能性も否めない。そのリスクを思えば、これ以上のデータをアップすることはできない。結果的に私は、身を隠す目的で自ら進んで入った檻に、閉じ込められていたわけだ。今となっては、折角集めた大量の証拠データや、告発文を公開する方法を失っていたのだ。半生をかけた苦労を考えれば、ただただ悔しい。
しかし悔しがっていてばかりいても生産性はない。
私にできることは何も無いのか? そう考え続けた。そしてあるアイデアが閃いた。それは情報を集めた方法と同様に、彼らには気づかれない完璧なアイデアだった。
詳しくは書けないが、簡潔に言えば、私はあるキーを残した。それを使うことでLPT・堤の陰謀が全世界に明るみになる。大事なのはそれを実行するには、既に檻の中にいる、私以外の誰かである必要があることだ。
私にとって唯一の望みは、このノートを読んだ人物が、それを実行することだ。
その可能性が極めて低いことは分かっている。LPTとの契約上、私が死ねばこのノートは彼らによって精査される。誰かが仕組みに気づき、キーを見つける可能性は限りなく低い。しかもその人物は、ほぼ確実にLPTの社員であるはずだ。
こう書いていても心もとない。しかし、それでも今の私には見知らぬ誰かの良心を信じてこれを託す他ないのだ、ゼルムがそうであったように……。
***
「正気とは思えない」
というのが最初の感想だ。しかし繰り返し読むうちに、「もし本当だったら」という思いが湧いてきた。私が、もともといわゆる陰謀論というものに端から興味がなかったことが、逆に作用したのかもしれない。
また、万が一にでも田中が書いた通りであれば、末端ではあるが私もまた堤の計画の一部であり、最後は家畜のように扱われるモータルということになる。
たった一日で、世界の見え方や風景がそれまでとは全く違って見えた。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。
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