第十九話 調査 一
その日の午後、長谷川が声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
私がいつもにまして喋らず、長谷川から話しかけられても「ああ」と「うん」としか返事をせず、出社以来昼食もとらず、ずっと自分のPCに向かっているのを見かねたようだった。
もちろん自覚はあった。ライトによって浮かび上がった田中のノートに書かれていた内容があまりに衝撃的で、ほとんど眠ることができなかったのだ。
そこに書かれていたのは、陰謀論としか思えないものだった。
LPTのCEOである堤翔が、その立場を利用して世界中の権力者と結託し、「永遠の命」に繋がる先端技術を独占しようとしている、というのだ。一方でディテールは実に細かかった。
LPTが今日の巨大企業になるために必要だった法案が、如何にして成立したのか。実際に起きた出来事とその裏で行われていた秘密のロビー活動。世界中のグローバル企業との資本関係や人的交流。それらを裏付ける豊富な数字が記されていた。なかには一見して流石に田中の妄想と思われる箇所もあったが、全体としては理論的で、巷に溢れているいわゆる陰謀論とは明らかにレベルが違った。
特にショックを受けたのは、あの「孤暑」自体が、生きた人間から大掛かりな生体情報を集めるための堤の陰謀だということだった。それを材料に、クローン、ゲノム編集、マインド・アップローディングといった先端技術の研究機関に入り込み、現在ではそうした技術を独占しつつあるというのだ。それ以外にも、故人が残した秘密を利用することで、国内はもちろん、海外の数多くの有力者を従わせているという。さらには身寄りのない遺体を、密かに臓器売買や研究機関に提供しているとして、その具体的な名前とともにまとめられていた。
田中によれば、堤はそうした「永遠の命」に関係する技術を独占し、一部の政治家やグローバル企業のリーダーに提供することで、現在、急速に進んでいる貧富の差、二極化の構造をより強固で不可逆的なものにしようとしているという。その結果、不死の存在「イモータル」による、有限の生「モータル」という支配構造、絶対的な管理者と家畜という世界を作る。
そして堤自らは、その王として君臨しようとしているのだというのだ。
田中の緻密な文章による裏付けがなければ、馬鹿馬鹿しい陰謀論だと鼻で笑ったはずだが、そう片付けるにはあまりにも詳細に過ぎた。
ファラオの昔から権力を握る者にとって永遠の命は、求めてやまぬものであることに違いはなかった。
田中のノートは次のような文章で締めくくられていた。
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次回は本日の21時ごろの更新を予定しています。
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