第十七話 秘密
目が覚めるとすっかり部屋は暗くなっていた。知らないうちに寝落ちしていた。
昨日自宅に戻ると、そのまま田中のノートを読み耽った。田中の字は上手いとは言えなかったが、読みやすく几帳面な性格が伺われた。
そこに書かれていたのは田中オリジナルの物語であった。緻密なキャラクターの分析と、ストーリーの深堀りがされており説得力があった。特にキャラが立った悪役のゼルムのせいで影が薄くなった本来の主人公たちについて、五人それぞれが最終決戦へと向かうドラマツルギーがしっかり描かれていた。
特に私が感心したのは2号機のパイロット・剣司ハリソンの描写だった。剣司は多くの2号機パイロットと同じく、少し斜に構えた性格で、主人公で1号機の熱血系パイロット・響勇気とよく対立していた。もちろん本当は勇気と同じく熱い心を持っているのだが、猪突猛進する勇気に対して、抑え役になることを自らに任じ、勇気を含む他のメンバーとも距離を取り、作戦面の問題を指摘することが多かった。
オリジナル版では、前半こそ二人のぶつかり合いが、グレンガーディアンへの合体の妨げになるなど、物語の重要な要素になっていたが、中盤でゼルムのストーリーが膨らむとともに、勇気以外のメンバーは登場場面自体が少なくなっていった。特に勇気の止め役という剣司の役割自体が、ストーリー的に邪魔になったのか、徐々にそのキャラクターを変え、作戦の説明や、新しい武器の紹介といった場面を受け持つ『解説キャラ』と化してしまった。
田中は作中で、剣司の登場が少なくなった理由を、『女王の正体や、ゼルムの故郷であり、地球の兄弟星の研究のためであった』としていた。そしてその成果を、最終回に唐突に登場する、スカル星へのワープ技術へと結びつけたのだ。
その上で、同じルーツを持つゼルムと闘うことを悩む勇気に、第八話に登場する、「俺達は同じ星を見ている」という台詞で勇気の気持ちを奮い立たせ、オリジナルの制作陣も考えていなかった伏線の回収をさせていた。
またこうした新解釈や新設定については、別に解説頁を用意し、技術的な裏付けや物語上での矛盾の解消を丹念に行なっていた。なかには地球とスカル星とを結ぶ特異点と、それを利用したワープ技術の可能性について、現在考えられる物理学を用いた解釈や、衛星軌道上にワープのための軌道ステーションを設置するために必要な軌道計算などもあり、正直、私には手に負えない部分も多かった。
それでも物語は魅力的だった。
コアなグレファの私でも(素晴らしい)と思える内容だった。
ノートにはオリジナルを補完する四話の他にも、マルチユニバース的な視点でゼルムと勇気たちが同じ地球で育ったものや、立場を逆転したもの、さらには学園モノに舞台を変えた短編も収められていた。こちらは本編の補完作品に漲っていたストイックさに比べ、肩の力が抜けた感じで気楽に読めるものになっていた。特に学園モノは秀逸で大笑いした。
私が寝落ちしたのはそうした作品群を読み終わり、細かな設定集に取り掛かった後だった。
寝ぼけた頭で腕の時計を見ると、夕方六時を過ぎていた。二月の陽は短く、部屋は暗かった。ソファで横になっていたせいか体のあちこちがギシギシいった。
ようやく半身を起こしたところで、床に田中のノートが転がっているのに気がついた。
慌てて拾おうとして、電気のリモコンが落ちた。なんとかノートは拾えたが、今度は電気が点けられない。立ち上がって壁にあるスイッチを操作すればいいのだが、それが面倒くさかった。
そこで手元の田中のノートに、小さなペンライトが差し込まれていたことを思い出した。ノートをテーブルに置き、早速、ライトのお尻のスイッチを押す。カチリという音がして点いた。しかしその光は弱々しく、ほとんど役に立たなかった。
(故障かな?)
ライトの先端を自分の顔に向けるが、ぼんやりと少し紫がかった光が見えるだけだった。インクの出ないボールペンのように振ってみても変わらなかった。しかし、その時、届いていないはずの光の先に何かが光るのが見えた。
ゆっくりライトを動かす。すると暗闇のなかで、ペンライトのか弱い強く光に反応しているものがあった。それはテーブルに置いたノートだった。表紙に描かれた、互いに向き合う二頭のドラゴンの目が輝いていた。
私はそのままライトで照らしたまま、ノートの表紙を開いた。
そこには「完全版 グレンガーディアン 田中一郎著」という文字の代わりに、
『LPT・堤翔が計画する人類管理計画に対する告発』
という文字が、浮かび上がっていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回は本日の21時ごろの更新を予定しています。
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