第十一話 LPTの成り立ち 五
一方で、堤はLPTとの契約に際して、徹底した資産の把握を要求した。銀行残高や証券などの金融資産はもちろん、不動産を含むあらゆる所有物は全てスキャンされ、資産としてカウントされる。また契約後の資産については、LPTの金融部門が運営する銀行に一本化が事実上義務付けられた。カードや電子マネーなども、その銀行に紐づけされたものだけを使うことが求められた。
その結果、契約者たちは、給料や年金といった収入から、歯ブラシ一本に至る支出まで、LPTが知るところとなった。私と長谷川が先ほどトイレに籠ってやっていた(実際はドローンがやっているのだが)のは、まさにこれだ。故人となった契約者、田中一郎の部屋にある資産の確認だった。
だがLPTが把握するのは金融資産だけではない。生体情報を含む、文字通りあらゆる個人情報だ。スマホやPCにはLPTのアプリを入れることが必須とされ、部屋にはカメラが設置された。
LPTはチップ(LGI)とカメラに加えて、あらゆる方法で、契約者の生活を把握し、それをデータとして利用する権利を、契約時に求めたのだ。
もちろん堤は、「こうした個人情報は極めて高度なセキュリティーシステムによって守られ。生前はもちろん、死後も外部に漏れることはない」と説明した。実際それは、少なくとも私の立場からは厳格に運用されているように見えた。確かにチップ(LGI)とカメラによって契約者は二十四時間、居場所と姿を把握されているが、それらの記録はAIにより自動処理され、そこへアクセスする権限は厳しく制限されていた。それらのデータが開示されるのは、原則的に緊急事態の時のみだった。つまり、倒れたり、死んだりしない限り、誰も見ることはできないのだ。
堤がそうして、個人の尊厳を守るために必要な等価の説明を終えたところで、会場からは、
「死後の処置については分かった。では、LPTはこのサービスでは生前何をするのか?」
という、しごく当然の質問が上がった。
堤はこれに対して微笑を浮かべたまま、極めて高度な技術論と浪漫的な死生観をミックスした回答を十分ほどした。
それは要約すると「何もしない」ということだった。
それまでの見守りサービスであれば、カメラや契約者の胸に埋め込まれたチップ(LGI)から異常が検出されれば、すぐに救急や家族への連絡が行く。しかし、この「尊厳のある孤独死サービス」では、何もしない。契約者が死ぬのに任せる。
そして、死が確認されたところで初めて動き出す。死体の回収に。それが私と長谷川の仕事だった。
二十二分四十八秒。
それは契約者の呼吸が停止し、その死が不可逆的であることを確実にするための時間だった。




