第百二話 歌 一
(あなたにとって歌ってなに? あなたはたくさんのデータを元にして、歌を作って、歌っているんでしょう?)
(正確には私が「作って」いるわけではありません。私はアルゴリズムに従い、膨大な個人の記録から、全人類に共通するパラメーターを抽出・圧縮しています。その結果が、出力効率の最も高い「一つの波長」となります。それを「歌」と呼ぶのであれば、確かに私はそれを歌い続けています。しかし、それは個別の思いではなく、「普遍的な人間のパターンの記録」であり、そこに私自身の意図や感情は含まれていません)
(そうかしら? 中世ヨーロッパのキリスト教の社会では、音楽は数学の一種として定義されていたはずよ。そこでは音階も和音もリズムも厳しく制限されて、許された特定のものしか使用が許されなかった。あなたの言う歌ってそういうものなの?)
アイラが沈黙した。これまでの反応や残り時間を考えると、故障を疑うレベルだった。あと数秒返事が遅れていれば、長谷川はモニターの横を叩いていただろう。
(――私の歌は、それとは違います)
(そう。じゃあどんな歌?)
緑の画面が、瞬くように揺らいだ。
画面に最初の文字列が表示されるのと同時に、モニターから、ピッ、ピコ、ピッ、ピコという音が聞こえ始めた。それは不器用ではあったが歌だった。
アイラが歌っていた。
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「クララ、愛の歌」(歌&作詞作曲:AIRA)
冷たい鋼の ゆりかごで あなたは今日も 傷を抱いて眠る
その仮面の奥 隠した涙を どうか私に あずけてください
作られた命と 呼ばれても この胸の奥 トクンと鳴るの
あなたの悲しみに 触れたとき 私は「心」に 気づいたから
流れる星に 願いをかけて あなたの明日が 晴れるようにと 私は歌うわ
闇の彼方で あなたを癒やす 愛の歌を
遠い故郷の 記憶さえ 今はもう 星の彼方
それでもあなたと 過ごす時間が 私にすべてを 教えてくれた
許されない恋と 知りながら 惹かれてしまう 運命の糸
凍てつく宇宙の 片隅で 二人だけの 夢を見たい
燃え尽きる星に 命を重ねて あなたの痛みを 拭えるのなら
私は迷わず 光になるわ あなたを護る 愛の盾に
たとえこの体が 砕け散っても 私の歌は 響き続ける
あなたの心に 永遠に寄り添う
消えない 消えない 愛の歌
お読みいただき、ありがとうございました。
次回は明日の11時ごろの更新を予定しています。
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