表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
90/102

第1話 拒絶


 朝、目が覚めて、最初にしたことは、昨日と同じだった。


 通信画面を開いて、レイナさんの名前を、押す。


 《この通信は、接続できません》


 ……うん。


 知ってた。昨日の夜、何回も見た。同じ表示。同じ言葉。一晩寝ても、変わっていない。


 分かってたのに、押した。


 画面を閉じて、いつもの朝を始めることにした。みんなの状態確認。夜の間の侵入者、なし。罠の再設置、なし。今日の召喚予定——


 指が、また、通信画面に伸びていた。


 《この通信は、接続できません》


 ……何をやってるんだろう、私は。


---


 午前の見回りで、2層目に降りた。


 森の空気は、いつも通りだった。ウルフたちが駆け寄ってきて、クロが先頭で、シロが後ろで、いつもの順番で、いつものように、頭を擦りつけてくる。


 いつも通りに、撫でた。


 クロが、ふと、動きを止めた。


 鼻先を、私の顔に近づけて、ふん、と匂いを嗅ぐ。それから、小さく、鳴いた。シロも、じっと、こちらを見ている。


「……なに? 何もないよ」


 クロは、納得しなかったらしい。私の手のひらに、頭をぐりぐりと押しつけて、そのまま、離れなかった。


 音も、匂いも、たぶん、いつもと同じにしてたつもりだった。


 でも、この子たちには、分かるらしい。


「……大丈夫だよ」


 自分の声が、思ったより、小さかった。


---


 夕方、住居エリアに戻って、一人になった。


 コハクは、エリンのところに遊びに行っている。コアさんは、静かだった。朝から、必要なこと以外、何も言わない。それが、気遣いだということくらい、分かる。


 通信画面を、開いた。


 《この通信は、接続できません》


 今日、何回目だろう。数えるのを、やめていた。


 どうして。


 その言葉が、朝からずっと、胸の底にいる。


 どうして、切られたんだろう。


 私、何か、したのかな。最後の通信で? ……それとも、もっと、前から。


 分からない。


 分からないことが、こんなに、痛いなんて。


「…………ひどいよ」


 言葉が落ちた瞬間、自分の口を、手で押さえた。


 誰もいない部屋で、一回だけ。


 こんな言葉、誰かに向けて思ったこと、なかった。レイナさんには、レイナさんの理由が、きっとある。それは、分かってる。分かってるのに。


 ……よくない。こんなの、よくない。


 息を吐いて、言葉を、しまい直した。


---


 夜、眠れなかった。


 天井を見て、寝返りを打って、また天井を見て——起き上がった。


 管理画面を、開く。


 通信記録。レイナさんとの、全部のログ。最初の一通から、最後の一通まで。全部、残っている。


 最初の通信は、レイナさんの方から来た。《紅理の苑、レイナだ》。名乗って、要件だけ言って、すぐ終わった、短い通信。私が名乗ったら、《知ってる》って返ってきたこと、覚えてる。


 読み始めたら、止まらなくなった。


 一通ずつ。順番に。あの時、私はこう送った。レイナさんは、こう返した。この返事は、少し遅かった。この言葉は、少し、いつもと違った——


 夜が明けるまで、読んだ。


 何度読み返しても、理由は、一つも、見つからなかった。


 昨日まで、普通だった。普通に話して、普通に終わって、それで、次の日に、《接続できません》。


 画面の前で、目を閉じた。


 今までの私なら、たぶん、ここで蓋をした。レイナさんにはレイナさんの理由がある。待とう。いつか、話してくれる日が来るかもしれない。それまで、そっとしておこう——そういう、いつもの、私の形。


 でも。


 目を開けた。


 ……知りたい。


 どうして、切られたのか。私の何が、駄目だったのか。それとも、私じゃない何かが、あったのか。


 知りたい。ちゃんと、知りたい。


 画面を切り替えると、2層目の森が、作り物の空の下で、ゆっくり明るくなり始めていた。


 眠れないまま、朝が来た。それでも、不思議と、昨日の朝より、息がしやすかった。


 立ち上がった。


「コアさん」


 《……はい》


「私、どうして切られたのか、知りたい。……このまま、終わらせたくない」


「手伝って」


 声は、思ったより、まっすぐ出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ