第1話 拒絶
朝、目が覚めて、最初にしたことは、昨日と同じだった。
通信画面を開いて、レイナさんの名前を、押す。
《この通信は、接続できません》
……うん。
知ってた。昨日の夜、何回も見た。同じ表示。同じ言葉。一晩寝ても、変わっていない。
分かってたのに、押した。
画面を閉じて、いつもの朝を始めることにした。みんなの状態確認。夜の間の侵入者、なし。罠の再設置、なし。今日の召喚予定——
指が、また、通信画面に伸びていた。
《この通信は、接続できません》
……何をやってるんだろう、私は。
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午前の見回りで、2層目に降りた。
森の空気は、いつも通りだった。ウルフたちが駆け寄ってきて、クロが先頭で、シロが後ろで、いつもの順番で、いつものように、頭を擦りつけてくる。
いつも通りに、撫でた。
クロが、ふと、動きを止めた。
鼻先を、私の顔に近づけて、ふん、と匂いを嗅ぐ。それから、小さく、鳴いた。シロも、じっと、こちらを見ている。
「……なに? 何もないよ」
クロは、納得しなかったらしい。私の手のひらに、頭をぐりぐりと押しつけて、そのまま、離れなかった。
音も、匂いも、たぶん、いつもと同じにしてたつもりだった。
でも、この子たちには、分かるらしい。
「……大丈夫だよ」
自分の声が、思ったより、小さかった。
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夕方、住居エリアに戻って、一人になった。
コハクは、エリンのところに遊びに行っている。コアさんは、静かだった。朝から、必要なこと以外、何も言わない。それが、気遣いだということくらい、分かる。
通信画面を、開いた。
《この通信は、接続できません》
今日、何回目だろう。数えるのを、やめていた。
どうして。
その言葉が、朝からずっと、胸の底にいる。
どうして、切られたんだろう。
私、何か、したのかな。最後の通信で? ……それとも、もっと、前から。
分からない。
分からないことが、こんなに、痛いなんて。
「…………ひどいよ」
言葉が落ちた瞬間、自分の口を、手で押さえた。
誰もいない部屋で、一回だけ。
こんな言葉、誰かに向けて思ったこと、なかった。レイナさんには、レイナさんの理由が、きっとある。それは、分かってる。分かってるのに。
……よくない。こんなの、よくない。
息を吐いて、言葉を、しまい直した。
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夜、眠れなかった。
天井を見て、寝返りを打って、また天井を見て——起き上がった。
管理画面を、開く。
通信記録。レイナさんとの、全部のログ。最初の一通から、最後の一通まで。全部、残っている。
最初の通信は、レイナさんの方から来た。《紅理の苑、レイナだ》。名乗って、要件だけ言って、すぐ終わった、短い通信。私が名乗ったら、《知ってる》って返ってきたこと、覚えてる。
読み始めたら、止まらなくなった。
一通ずつ。順番に。あの時、私はこう送った。レイナさんは、こう返した。この返事は、少し遅かった。この言葉は、少し、いつもと違った——
夜が明けるまで、読んだ。
何度読み返しても、理由は、一つも、見つからなかった。
昨日まで、普通だった。普通に話して、普通に終わって、それで、次の日に、《接続できません》。
画面の前で、目を閉じた。
今までの私なら、たぶん、ここで蓋をした。レイナさんにはレイナさんの理由がある。待とう。いつか、話してくれる日が来るかもしれない。それまで、そっとしておこう——そういう、いつもの、私の形。
でも。
目を開けた。
……知りたい。
どうして、切られたのか。私の何が、駄目だったのか。それとも、私じゃない何かが、あったのか。
知りたい。ちゃんと、知りたい。
画面を切り替えると、2層目の森が、作り物の空の下で、ゆっくり明るくなり始めていた。
眠れないまま、朝が来た。それでも、不思議と、昨日の朝より、息がしやすかった。
立ち上がった。
「コアさん」
《……はい》
「私、どうして切られたのか、知りたい。……このまま、終わらせたくない」
「手伝って」
声は、思ったより、まっすぐ出た。




