第9話 アルス、進化する
《アルス》
《進化可能》
しばらく、その表示を眺めていた。
進化チュートリアルを開く。説明文が流れてくる。
モンスターは一定の経験を積むことで進化できる。進化にはダンジョンマスターの承認が必要だ。進化後は種族が変わり、能力が向上する。名前付きのモンスターは進化後も自我を保つ。
「……自我を保つ」
2話で聞いた話だ。名前をつけた理由の一つでもあった。
アルスの進化先を確認する。
《進化先:ホブゴブリン》
《種族変化:ゴブリン→ホブゴブリン》
《能力向上:筋力・耐久・知性》
知性が上がる。
ルナリアはその一言を、しばらく見つめた。
「……進化させていい?」
独り言だった。アルスに聞いても答えは返ってこない。でも、なんとなく聞きたかった。
アルスはこちらを見ていた。いつもの、じっとした目で。
「……進化する、よ」
承認する。
アルスの体が、静かに光に包まれた。
派手な爆発も、轟音もない。ただ、淡い光がアルスの輪郭を包んで、ゆっくりと広がっていく。洞窟の魔素の光に似ているようで、でも少し違う色だった。
ルナリアは息を詰めて見ていた。
光の中で、アルスの輪郭が変わっていく。背が伸びる。肩幅が広がる。それがゆっくりと、でも確実に。
少し時間がかかった。
光が、消えた。
そこにいたのは、もうゴブリンではなかった。
背丈はルナリアより頭一つ高い。筋肉の厚みも違う。手が大きくなって、爪が鋭くなっている。肌の色は深みを増して、もとのゴブリンの面影は薄い。
でも顔を見れば分かる。
アルスだった。
目の奥に、何かがある。さっきまでと同じ目のはずなのに、その奥にある何かが、少しだけ増えている気がした。
「……アルス?」
ホブゴブリンは少し考えるように首を傾げた。
そして低い声で言った。
「主」
ルナリアは動けなかった。
声だ。言葉だ。今まで喉を鳴らすだけだったアルスが、言葉を言った。
「……アルス、今」
アルスは自分の喉に手を当てた。
不思議そうに指を動かす。
そしてもう一度口を開いた。
「……主」
今度は少しだけ、発音がはっきりしていた。
ルナリアは管理画面を開いた。
《アルス》
《種族:ホブゴブリン》
《フレーバーテキスト:寡黙》
《称号:???》
「……え?」




