第10話 称号の謎
朝、管理画面を開いてまず確認したのはアルスのページだった。
《アルス》
《種族:ホブゴブリン》
《フレーバーテキスト:寡黙》
《称号:???》
昨日から変わっていない。???のままだ。
「コアさん、この称号って何?」
「……称号の詳細を特定できません」
「発生条件も?」
「権限不足です」
「……権限不足」
コアも知らない。知れない。
ということは、鑑定スキルがあれば分かるかもしれないが、それ以上の何かかもしれない。
スキルツリーを開く。ダンジョンマスター系。鑑定Lv1。消費SP:2。
今のSP残高は0だ。Dコア権限にすべて使った。
「……SP、ないや」
閉じる。
今はどうしようもない。でも気になる。何の称号なのか。なぜ???なのか。なぜアルスに称号がついているのか。
「称号って、普通のモンスターにもつくの?」
「稀にあります。ただし特定の条件を満たした場合に限ります」
「アルスの条件って?」
「……特定できません」
「そっか」
答えが出ないなら、今は保留だ。SPが溜まったら鑑定を取る。それまで待つしかない。
ルナリアは管理画面を閉じて、アルスを見た。
ホブゴブリンになってから、アルスは少し変わった。
体が大きくなったのは当然だ。でも変わったのはそこだけじゃない。
昨日、ルナリアが独り言で「罠の2個目の位置、もう少し右の方がいいかな」とつぶやいたとき、アルスが管理画面を覗き込んだ。そして通路の壁を指で示した。
「……ここ?」
アルスは低く喉を鳴らした。
その位置に罠を移動させてみると、次の侵入者がきれいにかかった。
言葉は少ない。でも伝わる。
「……アルス、今日は何か話せる?」
アルスはしばらく考えるように黙っていた。
「主」
「それだけ?」
「……主」
「そうだね、私が主だね」
アルスは短く喉を鳴らした。満足しているのか、呆れているのか、分からない。
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今日は罠の配置を見直す日だ。
先日の撃退で分かったことがある。転倒トラップは侵入者の歩幅によって効果が変わる。歩幅の広い侵入者は難なく避けてしまう場合がある。
「アルス、ちょっと来て」
アルスがそばに来た。管理画面を開いて、通路の配置図を見せる。
「ここの転倒トラップ、位置変えようと思うんだけど」
アルスは配置図を眺めた。しばらく見てから、指で別の場所を示した。
「……そっちの方がいいの?」
アルスは低く喉を鳴らした。
理由は分からない。でも昨日も同じようにアルスの提案が当たった。試してみる価値はある。
承認する。
「……なんで分かるんだろうね、アルスは」
アルスは答えない。いつもの静かな目でルナリアを見ていた。
「称号もそうだけど、本当に何者なんだろう」
その視線が、ただ黙っているだけには見えなかった。
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その夕方、2つのことが立て続けに起きた。
1つ目は管理画面の通知だった。
《宝箱から珍しい素材を発見しました》
《精霊石(低品質):取得》
「……精霊石?」
「精霊系モンスターの強化素材です。ピクシーに合成することで能力向上が見込まれます」
「当たり?」
「はい。通常の宝箱からはほぼ出ません」
「……じゃあかなり当たりか」
頭にメモする。ピクシーへの合成は後で考える。
2つ目は、アルスだった。
管理画面から2層目の森を確認していると、アルスが森の奥の方に向かって歩いていくのが見えた。ゴブリンたちもついていく。
森の奥。ピクシーたちが配置されているエリアより、さらに奥だ。
「……コアさん、あの辺って何かある?」
「現在未探索エリアです」
「未探索?」
「はい。チュートリアルの探索範囲外です。詳細は不明です」
ルナリアは管理画面を眺めた。
アルスは立ち止まって、森の奥を見ている。ただ見ている。
でもその立ち方が、探索しているというより——何かを知っているかのように見えた。
「……アルス、何か見つけた?」
アルスは振り返らなかった。
ただ、低く短く、喉を鳴らした。
そして森の奥へ、一歩踏み出した。
理由も分からないまま。何かに呼ばれるように。
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