第11話 森の奥
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翌朝、管理画面を開いてまず2層目を確認した。
アルスは未探索エリアの手前で止まっていた。昨夜からそこにいたのか、今朝また向かったのか、分からない。ゴブリンたちはアルスの後ろに並んで、同じ方向を見ていた。
「……待ってたの?」
独り言だった。でもなんとなく、そう聞きたくなった。
管理画面を閉じて、ルナリアは立ち上がった。
今日は自分で降りることにした。アバターではなく、本体で。準備期間が終わって以来、外には出ていないが、ダンジョン内は自由に動ける。
2層目の森に降りると、空気が変わった。
洞窟とは違う匂いがする。土と葉と、魔素が混ざった独特の空気だ。木々の間から魔素の光が差し込んで、地面にまだら模様を作っている。
「……思ったより広いな」
管理画面で把握していたつもりだったが、実際に立ってみると感覚が違う。天井が高い。通路じゃなくて、本当に森だ。
アルスがこちらを見ていた。
「……案内してくれる?」
アルスは振り返って、歩き始めた。
ゴブリンたちがついていく。ルナリアもその後を歩いた。
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ピクシーが配置されているエリアを過ぎると、木々の密度が上がった。
足元に根が張り出している。枝が低く垂れている。管理画面の地図では「未探索エリア」と表示されている場所だ。
アルスは迷わず進んでいく。
「……本当に知ってるみたいに歩くね」
アルスは答えない。
しばらく進むと、木々が開けた。
小さな空間だった。岩に囲まれた、丸い広場のような場所。天井の岩肌から魔素の光が滲み出ていて、他の場所より少し明るい。
そして奥に、小さな洞があった。
「……洞窟?」
近づいてみると、岩の窪みの中に何かが置いてあった。
丸い、球体の宝石だ。
握りこぶし大ほどの大きさで、透明に近い。でも内側に何かが揺れている。光、というより、もっと深いもの。眺めていると、引き込まれそうな感覚がした。
「コアさん、これって何?」
「……分析できません」
「分析できない?」
「はい。既存のデータに該当する素材がありません」
ルナリアはしばらく宝石を眺めた。綺麗だ。でも何なのか分からない。
手を伸ばしかけたとき、アルスが先に動いた。
宝石をそっと拾い上げて、ルナリアに差し出した。
「……私に?」
アルスは低く喉を鳴らした。
受け取る。思ったより軽かった。でも手のひらの中で、かすかに温かい気がした。
「……ありがとう、アルス」
アルスはそのまま、広場の真ん中に立って周囲を見渡した。何かを確認しているような立ち方だった。
ゴブリンたちも散らばって、周囲の気配をうかがっている。
「……ここ、何かあるのかな」
管理画面を開く。《新規エリアを発見しました》という通知が来ていた。
《採取可能素材:なし》
《モンスター出現:なし》
《特記事項:魔素濃度が局所的に高い》
「魔素濃度が高い……」
周囲の空気が少し違うのは、そのせいかもしれない。でもなぜここだけ高いのか、分からない。
ルナリアは手の中の宝石をもう一度見た。
内側で何かが揺れている。光ではない。でも確かに、何かがある。
「……倉庫に入れておこう。後で使い道を考える」
管理画面のアイテム欄に収納した。
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帰り道、ルナリアはふと気づいた。
アルスが先導していたとき、探索の速さが普通じゃなかった。どこに何があるか分かっているように進んでいた。でも管理画面の地図では未探索エリアのはずだ。
「コアさん、ジャイアントラットってどんな特性があるの?」
「偵察・索敵能力が高い種族です。未探索エリアの先行調査に向いています」
「……偵察」
アルスを見る。アルスは黙って歩いている。
「アルスがジャイアントラットと一緒に偵察したら、どのくらい範囲が広がる?」
「試算できません。ただし偵察範囲は大幅に向上すると予測されます」
「……なるほど」
頭にメモしておく。ジャイアントラットの召喚を検討する。
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3層目の住居エリアに戻って、ルナリアはベッドに腰を下ろした。
アルスが入り口で立ち止まった。今日はここまでだ、という意思表示のように見えた。
「今日はありがとう、アルス」
アルスは低く喉を鳴らした。
「……あの宝石、何なんだろうね」
アルスは少しだけ、首を傾げた。
知っているのか、知らないのか。分からない。
でも確かに、アルスがあの場所に連れていってくれた。あの宝石を、自分に渡してくれた。
理由は分からない。
でも今は、それだけで十分だった。




