第22話 困惑
朝、召喚スケジュールを確認した。エリンの魔素感知範囲が少しずつ広がっている。順調だ。
午前中、侵入者が1組来た。Eランクの3人組。1層目でホブゴブリン小隊が対応し、早めに撤退させることができた。損耗なし。
午後、コハクが膝に乗ってきた。その頭を撫でていると、コアネットが鳴った。
知らない名前だった。
《紅理の苑 レイナ》
「コアさん、これ」
《……通信着信です。紅理の苑、406位のダンジョンマスターです》
406位。前回のダンフェスで見た名前だ、とルナリアは思った。新人の中で、確か上位にいた。
受けるか、受けないか。一瞬迷った。でも、断る理由もなかった。
承認した。
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《質問がある》
いきなりだった。
挨拶もなく、名乗りもなく、本題から入ってきた。
《……えっと》
ルナリアは戸惑った。誰からの通信で、何の話をしているのか、一瞬分からなかった。
《モンスターに名前をつけたり、体調を気にかけたりする運営をしていると聞いた》
《……えっと、初めまして、ですよね?》
《紅理の苑、レイナだ》
〈あ、レイナさん、ですか。初めまして、ルナリアです〉
少し間があった。
《知ってる》
《……そうなんですね》
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《データにない判断だ。理由を聞きたい》
ルナリアは少し考えた。
〈理由、というか……失いたくないので〉
《失いたくない、とは》
〈モンスターも、その、家族なので。消耗品みたいには扱いたくなくて〉
また少し間があった。
《非効率だ》
膝の上のコハクが、小さく鳴いた。ルナリアはその頭を撫でながら、少し考えた。
《……そう思われても仕方ないと思います》
《でも、367位まで上がっている》
〈あ、それも知ってるんですね……〉
どこまで知られているのか、少し不安になった。
〈順位は、あまり気にしてなくて……気付いたら、こうなってました〉
ルナリアはしばらく黙った。この人は何が目的で連絡してきたのだろう。
〈あの、レイナさんは、何のために連絡してきたんですか〉
少し長い間があった。
《……分析のためだ》
《分析》
《データにない判断が、なぜ結果に繋がるのか知りたい》
ルナリアは、その言葉を少し考えた。
《……レイナさんは、モンスターのこと、どう思ってますか》
《戦力だ。判断材料であり、消耗する資源だ》
迷いのない即答だった。
《……いなくなったら、悲しくないですか?》
少し間があった。
《悲しさは判断に関係ない》
〈そっか……そうですよね〉
悪いとは思わなかった。ただ、自分とは違う考え方だ、と思った。
《でも結果が出ている》
〈結果は、後からついてきただけです。みんなが元気だと、私も嬉しいので〉
通信の向こうで、少し沈黙があった。
《……理屈に合わない》
それだけだった。
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《今日は終わりだ》
《また連絡する》
〈はい。いつでもどうぞ〉
通信が切れた。
「……あれで終わり?」
ルナリアはしばらく画面を見ていた。
「コアさん、なんか、変わった人だったね」
「……はい」
「でも、悪い人じゃない、気がする」
「……判断材料が不足しています」
「そうだよね」
膝から降りていたコハクが戻ってきて、ルナリアの手に鼻先を当てた。ルナリアはその頭を撫でた。
「今日もいつも通り、頑張ろっか」
管理画面を開いた。今日の召喚スケジュールが並んでいる。
画面の端、通信履歴に、紅理の苑という文字がまだ残っていた。
また連絡すると、あの人は言っていた。
「……家族、か」
コハクが小さく鳴いた。
初めての、変わった相手だった。




