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第20話 消えた影


 街道には、旅人の姿が戻っていた。


 ヴァルカンは窓から外を眺めた。荷馬車が一台、ゆっくりと通り過ぎていく。商人らしき男が手綱を握っていて、護衛が二人ついていた。護衛の数が多いのは、まだ名残だろう。それでも、動き始めた。


「最近の報告は」


 ライゼンが書類を開いた。


「……先週から異常なし。街道周辺の魔素反応も、通常範囲内に戻っています。捜索を続けていた行方不明者二人は、残念ながらまだ見つかっていません」


「そうか」


 ヴァルカンは窓から視線を戻した。


「消えた、じゃなく、潜った」


「……可能性は高いと思います。ただ証拠がない」


「巡回は続けろ」


「……はい」


---


 ゴレウスが椅子を引いて座った。


「吸血鬼の話、どうなった」


「……目撃情報は先月の終わりを最後に途絶えています」


「ぴたっと止まったな」


「……ええ」


 ライゼンは少し間を置いた。


「精霊の遊庭周辺が多かった。害はなかった。でも突然消えた」


「つまり分からねえってこと?」


「……接点があるとすれば、あの手紙くらいです」


 ライゼンが書類を一枚取り出した。


「差出人不明のまま届いた手紙。消耗戦の戦術を伝えてきた。あれが誰からのものなのかも、まだ分かっていない」


「そういや、街道に近いダンジョンって精霊の遊庭だったか」


「……はい」


「あそこ、オリジンバードを使ってるんだったな」


「……はい。ギルドへ直接届けられた手紙も鳥便でした」


「……鳥で手紙を届けたってことか」


 ゴレウスが低く言った。


 誰も何も言わなかった。


「なんで低ランクのダンジョンが俺たちに情報提供するんだよ。意味が分からん」


 また誰も答えなかった。


「少なくとも、一つだけ確かなことがあります」


 ライゼンが静かに言った。


「……あの手紙が届いた時期を境に、街道の被害は止まっています」


 ヴァルカンは何も言わなかった。


 ゴレウスも黙った。


---


 ヴァルカンは窓の外を見た。


 街道に陽が差していた。荷馬車の車輪の音が、遠くから聞こえてくる。


 終わったのか、消えただけなのか。答えはまだ出ていない。


「引き続き注視しろ。精霊の遊庭も含めて」


「……はい」


 会議は静かに終わった。


 ヴァルカンはもう一度だけ窓の外を見た。


 街道には今日も、ゆっくりと旅人が戻り始めていた。


 あの手紙が届く前には、誰も歩いていなかった道を。


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