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第17話 差出人


 朝、コアネットに着信が来た。


 知らない名前だった。


 《暗幽の廃城 アルカナ》


「コアさん、これ」


「……通話着信です。暗幽の廃城、310位前後のダンジョンマスターです」


 ルナリアはしばらく画面を見た。


 知らない名前だ。でも、暗幽の廃城は——ダンフェスで見た気がした。


 受けるか、受けないか。


 迷っているうちに、着信が切れた。


---


 画面が元に戻った。


「……切れた」


「……はい」


 ルナリアはしばらく、その名前を画面に表示させたまま見ていた。


 暗幽の廃城。アルカナ。310位。


 名前を見ていると、また着信が来た。


 同じ名前だった。


 今度は、すぐに承認した。


---


 最初に聞こえたのは、短い沈黙だった。


「……思ったより早く受けたのね」


 声だった。淡々としていて、感情の起伏がない。


「2回かけてきたので」


「……そう」


 また沈黙。


「アルカナ。暗幽の廃城」


「……えっと、初めまして」


「……初めまして、ではないかもしれない」


 ルナリアは少し止まった。


「今まで、あなたのダンジョンに手紙を届けていた」


 手紙。


 署名のない、あの手紙。


 何度も読み返した。捨てられなかった。あの一文を見るたびに、不思議と少し落ち着いた。


 その相手が、今、声になっている。


「……あの吸血鬼が」


「……ええ」


「じゃあ、全部」


「……ええ」


 胸のあたりがざわついた。


---


「……どうして私だったんですか」


 沈黙。


 アルカナはすぐには答えなかった。


「……気まぐれ」


「それだけ?」


「…………」


「違いますよね」


「……今は、それだけ」


 それ以上は答える気はないらしい。ルナリアは小さく息を吐いた。


「ずっと見てたんですよね」


「……何を言いたい」


「長く見てたんでしょう。何かを確かめようとしてた」


 アルカナはすぐに答えなかった。


「あなたは違った」


「何がですか」


「勝ったあと、倒れたモンスターを見る人は少ない」


「…………」


「教えてくれないんですね」


「……まだ」


---


「……じゃあ、コハクも見てたんですか」


「……白い狐?」


「コハクです」


「……何度か見かけた」


 ルナリアは言葉を失った。


---


「……それで」


「…………」


「私は、どうだったんですか」


 少し長い間があった。


 返事はない。


 ルナリアは、少しだけ聞かなければよかったと思った。


「……期待外れでした?」


 長い沈黙があった。


 返事が来ない。


 ルナリアは画面を見つめたまま、動けなかった。


「……だから、今電話してる」


 ルナリアは返事ができなかった。


---


「……だから今、名乗ったんですか」


「……今なら言うべきだと思った。それだけじゃない」


「最近、ダンジョンマスター同士で連絡を取り始めている動きが増えている」


「……私も、最近通信が増えた気がします」


「普通はしない。ランキングは競争だから」


「……気をつけて、ってことですか」


「……ええ」


「何に気をつければいいですか」


「……それが分からない」


 ルナリアはしばらく黙った。


「分かりました」


「……信じるの? 理由も言えないのに」


「手紙、全部本当のことでしたよね」


「…………」


「言えなかったこともある」


「…………」


 ノイズが走った。


「待っ――」


 通話が切れた。


---


 ルナリアはしばらく、画面を見ていた。


「コアさん」


「……はい」


「最近、他のダンジョンマスターたちって、何か変わった動きしてる?」


 少し間があった。


「……把握できる範囲では、特に異常は確認できません」


「そっか」


 把握できる範囲、か。


 ルナリアは管理画面を開いた。でも、どこかに引っかかりが残ったまま、画面を眺めていた。


「言えなかったこともある」


 その一言だけが、頭の中で静かに残っていた。


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