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第16話 気配


 朝、管理画面でランキングを確認した。


 406位。次のダンフェスまでは数字は動かない。それでも、確認することに意味はある。今のうちにどれだけ差を詰める準備ができるか、それが次の発表に直結する。


 レイナは管理画面を閉じて、今日の召喚スケジュールに目を移した。


「炎系の補充を優先。配置は前回と同じで」


 《了解》


 ダンジョンコアは静かだった。いつもそうだ。それでいい。


---


 昼過ぎ、侵入者反応があった。


 Fランクの4人組。レイナは管理画面を見ながら、配置図を呼び出した。


 前衛2、後衛2。盾持ちが先頭。よくある編成だ。データ通りに動けば、対処は単純になる。


 《1層、炎系獣型を通路中央に。後衛の射線を切って》


 《了解》


 炎狼が動いた。盾持ちが構えた瞬間、左右から熱気が回り込む。冒険者たちは迷わず後退した。


 《追わなくていい》


 《了解》


 損耗なし。理想的な結果だった。


 レイナは記録を更新した。感傷はいらない。データだけが、ダンジョンを強くする。


 画面を閉じようとした時、監視画面の端で反応が一瞬揺れた。森の方角だった。


 《誤差》


 レイナはそう判断した。修正もせず、画面を閉じた。


---


 夜、ミルティアから通信が来た。


 《レイナさん、聞いてください……今日、ちょっと変なことがあって……》


 《何があった》


 《誰かに、レイナさんと何かあったの、って聞かれて……知らない人なんですけど、私のことをやたら知っていて……私は何もされていません、って言ったんですけど……気のせいだといいんですけど……》


 《ルナリアさんも心配してくれてて……》


 《誰》


 《精霊の遊庭の……》


 《……そうか》


 レイナは画面を見た。


 《私は何もしていない》


 《分かってます……でも怖くて……》


 《誤解なら正せばいい。事実を並べればいい》


 《……レイナさんは、強いですね》


 強い、という評価には反応しなかった。事実に強さも弱さもない。手順があるだけだ。


 《もう少し、レイナさんみたいに考えられたらいいのに……》


 その一文を、レイナは少しの間見ていた。


 何かが、引っかかった。


 言葉の流れが、少し綺麗すぎる。怖がっているはずの相手の文章が、妙に整っている。


 でも、それもすぐに打ち消した。


 判断材料が足りない。結論は出さない。


 《気にしすぎても仕方ない》


 《……そうですね。ありがとうございます、レイナさん》


 通信が切れた。


 レイナはしばらく画面を見ていた。


 画面の隅に、ランキングの数字が表示されている。406位。


 精霊の遊庭。


 名前だけは知っている。それ以上のことは、まだ何も知らない。


 誰も信じてくれない、とミルティアは言っていた。レイナには、その感覚がよく分からなかった。


 でも、少しだけ、画面を閉じるのが遅れた。


 結論を出すには、まだ早い。


 今は、補充スケジュールを確認する時間だった。


 レイナが画面を切り替えようとした、その時。


 監視画面の一角で、一瞬だけ反応が揺れた。森の方角だった。


 レイナは、ほんの少しだけ画面を見た。


 《誤差》


 レイナはそう判断した。記録は残さなかった。


 画面を閉じた。


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