第10話 紅理の苑
20260724改稿
新しい期が、始まった。
レイナは管理画面を開いて、今期の損耗率を確認した。準備期間中に消えたモンスターは、17体。
想定の、範囲内だった。
消えたモンスターの個体記録を、一つずつ確認する。戦闘データ。消耗タイミング。対応した侵入者のランク。全部を照らし合わせて、どこに穴があったかを分析する。
A-09の記録だけ、開いている時間が、少し、長かった。
……データの確認に、時間がかかっただけだ。
感傷は、いらない。データだけを、見る。
「次の召喚スケジュールを出して」
《炎系6・汎用4》
「炎系を優先。1層目の罠周辺に配置して」
《了解》
手早く指示を出しながら、ランキングの数字を、頭の中で整理した。
406位。新人の中では、トップ。
それに何の意味があるのか、レイナには分からなかった。新人同士で比べても、意味はない。既存のダンジョンマスターたちは、ほぼ全員が格上だ。
差を縮めるには、時間と、計算が必要だ。それだけだ。
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紅理の苑は、炎と石でできたダンジョンだった。
入口から続く回廊は黒い玄武岩で舗装されていて、壁には焔理の紋様が走っている。奥に進むほど、気温が上がる。罠は熱系が中心だ。炎。蒸気。高温の床。侵入者の動きを制限して、モンスターが仕留める。
見た目の美しさは、関係ない。侵入者を効率よく処理できるか。それだけが、基準だ。
住居エリアは、寝床と、管理画面だけ。余計なものは、置かない。
このダンジョンは、そういう場所だ。
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午後、侵入者が来た。
Eランクの、3人組だった。入口で、少し止まっている。熱気に、慣れていないのだろう。
レイナは管理画面を見ながら、指を動かした。
1層目の床罠が、起動した。炎が吹き上がる。先頭の冒険者が叫んで、右に跳んだ。
想定通りだ。右に逃げれば、壁沿いの通路に誘い込まれる。そこで、気温が上がる。じわじわと。気づく頃には、体力が削れている。
炎狼が2体、出口を塞いだ。
3人が固まって、後退する。炎狼は、追わない。ただ、そこにいるだけでいい。侵入者が、自分で判断して、撤退する。それが、正しい設計だ。
《対応完了。損耗1》
「予定より、4秒遅い」
4秒。誤差では、ない。配置か、個体か、指示か。
記録映像を、巻き戻す。……見つけた。炎狼の初動が、床罠の熱に、コンマ数秒、引っ張られている。罠と待機位置の距離を、半歩分、離す。
次は、遅れない。
レイナは、記録した。個体番号A-17、廃棄。損耗率は、許容範囲内。それだけだ。
撤退していく3人を、画面越しに見た。怪我は、している。でも、死んでいない。
死なせる必要は、ない。弱った冒険者は、噂を広める。このダンジョンは危険だ、と。それが、次の侵入者の判断に影響する。
計算の、上だ。
ダンジョンコアは、何も言わなかった。
レイナのダンジョンコアは、いつも、静かだった。指示には、応える。でも、自分から何かを言うことは、ほとんどない。
レイナは、それで、よかった。
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夕方、ダンジョンマスター通信に、着信があった。
知らない名前だった。新人だろう。レイナは一瞬だけ確認して、通信を、切った。
必要のない繋がりは、作らない。同期だからといって、友人になる必要は、ない。
そのかわり、ランキング上位のダンジョン名だけは、全て確認していた。上から、順に。どういう方針のダンジョンが、生き残っているか。それが分かれば、参考になる。
白氷獄の宮。343位。昇格が、速い。
要観測。
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夜、今期の運営方針を、整理した。
1層に配置された炎系獣型が、今日の戦闘で、1体消えた。補充は、明日。それでいい。
目標は、単純だ。ランキングを上げる。ダンジョンを強化する。そのために、最も効率的な手順を踏む。
モンスターに、名前をつけるな。居場所を、固定するな。愛着を、持つな。
レイナはそれを、準備期間中に、何度も、自分に、言い聞かせてきた。
言い聞かせる必要が、なぜあるのかは——考えないことに、していた。
「補充優先度を更新して。炎系・速攻型を上位に」
《更新完了》
ダンジョンコアは、静かだった。
レイナは、ランキングを開いた。上から、順に流し見る。
343位。白氷獄の宮。氷系、推定。
367位。精霊の遊庭。自然系、推定。
未確認情報として、記録。
画面を、閉じた。




