第6話 空からの目
20260723改稿
夜、管理画面を開いたまま、しばらく考えていた。
討伐隊が、編成された。先発隊が、壊滅した。赤い染みは、昨日より、街道に寄っている。
何も知らないまま、ここで待つ。それが、一番、落ち着かなかった。
「コアさん。自分のダンジョンの周りのことくらい、ちゃんと、知っておきたい」
《……賛成です》
「賛成なんだ」
《……はい。情報がないままの判断は、リスクが高いです》
管理画面の、スカイスワローの欄を開いた。5羽。偵察用の子たちだ。今までは、対戦相手のダンジョンを見るために、飛んでもらってきた。
「街道の方、見てきてもらおうかな」
《……5羽とも、進化条件を満たしています》
「全員?」
《……はい。最近の、魔素の流れの変化が、影響している可能性があります》
魔素の流れの、変化。
外の異変は、もう、うちの中まで、届いているということだ。この子たちの体の中にまで。
少しだけ、背筋が、冷たくなった。
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翌朝、スカイスワロー5羽を、呼んだ。
5羽が、小さな頭を傾けて、こちらを見た。
「みんな、進化できるって聞いたよ。それでね——街道の様子を、見てきてほしいの」
一度、言葉を切った。
「危ないことは、しなくていい。本当に、遠くから、見るだけでいい。何かあったら、すぐ帰ってきて」
管理画面に、表示が出た。
《スカイスワロー → オリジンバード》
「進化、していい?」
5羽が、同時に鳴いた。返事の、ようだった。
「承認する」
光が、5羽を包んだ。
白い羽が、銀色に変わった。翼が、一回り大きくなる。
《オリジンバード×5》
《飛行速度:大幅上昇》
《視界範囲:大幅拡大》
《高度上限:上昇》
「偵察、これだけだと足りないよね。追加で、召喚できる?」
《……スカイスワローは1体50DPです。5体で、250DP》
罠を、何個か置ける数字だった。それでも——知らないままの方が、怖い。
「召喚して」
新しいスカイスワローが、5羽。まだ小さくて、頼りない見た目だった。これで、10羽。銀色の5羽と、これから育つ5羽が、住居エリアの上を、静かに旋回した。
「行ける?」
《……可能です》
「気をつけてね」
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オリジンバード2羽を、街道方面へ。残りは、周辺の警戒に。
管理画面で、視野を追った。
森の上空を抜けて、街道が見えてくる。——普段と、違う。馬車の数が、少ない。あちこちに、焚き火の跡。臨時の検問所らしきものが作られて、鎧を着た人たちが、何人も立っている。
「コアさん、あれ、討伐隊かな」
《……可能性が、高いです》
さらに進むと、開けた場所に、出た。
息を、のんだ。
木々が、なぎ倒されていた。広範囲に。何かが通った、跡のように。地面には、大きな足跡のようなくぼみが、いくつも、続いていた。
「コアさん、これ」
《……記録しています》
何かが、確かに、ここを通った。一度や二度じゃない。同じ場所を、何度も、通っている。
1羽が、さらに先へ進もうとした。
その時、コアさんの声が、鋭くなった。
《……反応があります。両方とも、引き返してください》
「え」
《——今すぐ》
指示を出した。2羽が、急旋回する。
その瞬間——画面の端を、巨大な、黒い影が横切った。
木の高さに、届きそうな、巨体。
熊のような、シルエット。マーダーベア——いや、違う。腕が、異様に、長い。知っている、どの魔物の形とも、合わない。
姿を確かめる前に、影は、視界の外へ消えた。
影の通った後で、木々が、大きく揺れた。
少し遅れて、遠くから、木の倒れる音だけが、届いた。
一本じゃ、なかった。
画面を見つめたまま、しばらく、動けなかった。
2羽が帰ってきた時、羽は、まだ小さく震えていた。
「お疲れ様。……怖かったよね。ごめん」
順番に、頭を撫でた。羽の震えが、手のひらに、伝わってきた。
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夜、記録された映像を、もう一度見た。
なぎ倒された木々。焚き火の跡。検問所。地面のくぼみ。そして、最後に一瞬だけ映った、黒い影。
「コアさん。あれ、何だったんだろう」
《……分かりません。ただ、警戒対象であることは、確かです》
「すごく、大きかった」
《……はい》
映像を、閉じた。
知れば知るほど、不安が、大きくなっている気がした。それでも、知らないよりは、いい。そのはずだ。
コハクが足元に来て、心配そうに、見上げてきた。頭を、撫でた。
「大丈夫だよ」
口に出した分だけ、嘘になった気が、した。
コハクが、小さく鳴いた。
静かな住居エリアに、コアさんの声が、響いた。
《……ルナリア。今回確認できた範囲は、限定的です》
「つまり?」
《……情報が、不足しています。偵察範囲の拡張を、推奨します》
「……うん。明日も、飛ばそう」
そう答えた。答えたのに、胸の奥は、少しも、軽くならなかった。
目を閉じると、あの黒い影が、まだ、そこにいた。
(新しい期まで、あと65日)




