第5話 ギルドの朝
20260723改稿
冒険者ギルドの朝は、いつもより、騒がしかった。
「討伐隊編成だってよ」
ゴレウスがカウンターを拳で叩きながら言った。声が大きい。受付の周りにいた何人かが、顔を上げて振り返った。
奥の掲示板に、すでに人だかりができていた。
《討伐隊編成のお知らせ》
《対象:街道周辺、魔素異常波動発生エリア》
《参加資格:Cランク以上》
《詳細:本部にて説明》
それだけだった。何が出たのか、どんな脅威なのかは、書かれていない。
「情報少なすぎだろうが。ふざけてんのか」
ゴレウスが掲示板を蹴った。
「……分からないなら、分からないなりに気をつけろ、ということでしょう」
静かな声がした。ライゼンだった。いつの間にか、後ろに立っていた。
「ライゼンさんも行くんすか」
「……行くしかないでしょう。Bランクですから」
ライゼンはそう言って、掲示板をじっと見ていた。
「何か知ってるんすか」
ゴレウスが詰め寄るように聞いた。
「……いえ。ただ」
ライゼンは、少し間を置いた。
「……街道沿いの依頼が、ここ数日で急激に減っています。代わりに、討伐依頼の前払い金額が、異例に高い」
「高いって、どれくらい」
「……通常の、3倍です」
「は?」
ゴレウスが舌打ちした。
「とんでもねえやつなんだろうな、それ」
「……恐らく」
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午後、本部からの説明会が開かれた。
集まった冒険者は、20名ほどだった。Cランク以上という条件もあって、人数は多くない。
前に立ったのは、ギルドマスターのヴァルカンだった。元冒険者らしい、よく通る声だった。
「街道周辺で、未確認の魔物群の活動を確認した」
ざわめきが起きた。
「種族は」
誰かが聞いた。
「……不明」
また、ざわめいた。
「規模は」
「……拡大している。確認地点は、三日前まで3か所。今日の時点で、7か所だ。既に、商隊への被害も出ている」
静かになった。
「先発隊は」
ヴァルカンは、間を置いた。さっきまでの、よく通る声が、少しだけ、低くなった。
「……壊滅した」
完全に、静まり返った。
「先発隊は12名。生存者は、1名。証言は錯乱状態で、有効な情報は得られていない」
ヴァルカンは、そこで一度、言葉を切った。続けるかどうか、迷ったような間だった。
「……ひとつだけ、生存者が繰り返し言っていた言葉がある」
誰も、何も言わなかった。
「——森が、動いていた。……以上だ」
ざわめきは、もう、起きなかった。
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説明会が終わって、ギルドの外に出た。
「先発隊が壊滅、ねえ」
ゴレウスが舌打ちした。
「……統率されている可能性が、あります」
ライゼンが呟いた。
「統率? 魔物がか?」
「……はい。でなければ、先発隊が、あそこまで簡単にはやられない」
ゴレウスは黙った。それから、腕を組んだ。
ライゼンのパーティメンバーの、セオがついてきた。
「街道のダンジョン、軒並み侵入者数が落ちてますね」
「……精霊の遊庭も、か」
「あそこ、初心者向けで人気でしたからね。最近は、向かう冒険者も減ってるらしいです」
ゴレウスが顔をしかめた。
「……まさか、あそこが原因じゃねえだろうな」
「は?」
「場所近えだろ。街道と、あのダンジョン」
セオが、手を止めた。
「……可能性は、ゼロじゃないですけど」
「……違います」
ライゼンだった。静かだが、迷いのない声だった。
「あそこの罠は、人を殺さない配置です。撤退の余地を、必ず残している。報告書を、読み込めば分かります」
ゴレウスが、顔をしかめたまま、ライゼンを見た。
「……お前、あんな低ランクの報告書、読んでんのか」
「……興味深いので」
ゴレウスは、しばらく黙って、それから吐き捨てた。
「変なダンジョンの心配より、自分の心配しろよ。馬鹿野郎」
「分かってますって」
セオが首をすくめた。
ライゼンは、空を見上げていた。
「……今夜から、巡回を増やします」
少し、間を置いた。
「……嫌な予感が、します」
それだけ言って、歩き出した。
ギルドの外では、街道へ向かう討伐隊の準備が、始まっていた。
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その頃、精霊の遊庭では。
《……討伐隊が、編成されました》
コアさんが、静かに言った。
ルナリアは、管理画面から目を上げた。
「……ついに、動いたんだ」
地図を開く。赤い染みは、昨日より、はっきりと、街道に寄っていた。
討伐隊が、向かう方向へ。
まるで、待っているみたいに。
——見ている前で、染みの一つが、ふ、と消えた。
数秒、置いて。
さっきより少しだけ、こちらに近い場所に、灯り直した。
動いてる。今、この瞬間も。
(新しい期まで、あと73日)




