第16話 戦後処理
翌朝、管理画面を開いた。
やることがある。昨夜は死亡記録を見たまま動けなかった。でも今日は動く。
まず補充だ。
「コアさん、ホブゴブリンを2体召喚して。シャドウバットも6体」
「……消費DP:120です。よろしいですか」
「うん」
承認する。ホブゴブリン2体が1層目に加わった。シャドウバット6体が2層目の天井に散った。
「……戻った」
ホブゴブリンが並んでいる。数は戻った。でも昨日ここにいた個体じゃない。
死亡記録に名前はない。名前をつけていなかったから。でも昨日、確かにここにいた。今はいない。今いるのは、別の個体だ。
胸の奥が少しだけ重かった。
---
次に報酬枠を開いた。
対戦報酬。Fランク:2枠。
1枠目を開く。
《ウルフ召喚エリア権利書》
2層目の特定エリアにウルフ専用の召喚エリアを設置できる。毎日1体自動補充される。
2層目の森の奥に設置エリアを選んだ。承認する。森の一角に光が集まって、召喚エリアが出来上がった。
クロが新しくできたエリアの周囲をくんくんと嗅ぎ回っていた。シロがその後ろから様子を見ていた。
「明日から毎日1体補充されるから」
クロは嗅ぎ回るのをやめて、ルナリアを見た。それからまた嗅ぎ回り始めた。
2枠目を開く。
《牙砦の爪》
「……カルナのダンジョンの素材か」
しばらく眺めた。小さくて鋭い爪だ。コボルト系の爪。カルナのモンスターが持っていたもの。
カルナはもういない。挑戦状を送ってきて、ルナリアのダンジョンに踏み込んで、そして消えた。もう二度と会わない。
この爪だけが残った。
使わないでいる理由が、うまく見つからなかった。
「コアさん、これってどのモンスターに合成できる?」
「……ウルフ系への合成が可能です。速度と爪の鋭さが強化されます」
「クロに合成しよう」
クロを呼んだ。クロが来た。足元をうろつきながら、爪のことなど何も知らない顔をしている。
ルナリアはしばらくクロを見た。
カルナ戦でクロは走り続けた。罠を踏んでも立ち上がった。最後まで走っていた。
この爪はカルナのダンジョンから来た素材だ。カルナのモンスターが持っていた。カルナが積み上げてきたものの欠片が、今ここにある。
カルナは消えた。もう二度と会うこともない。でも、この爪だけは残った。
捨てる気にはなれなかった。
「ちょっとじっとして」
クロが止まった。珍しく素直だった。
合成を承認する。光がクロの爪を包んだ。少し、爪の色が変わった。黒みが増して、鋭くなっている。
クロが自分の爪を見た。首を傾けた。それから前足で地面を引っかいた。
音が違った。今までより、はっきりした音がした。
クロがもう一度引っかいた。また同じ音がした。それから顔を上げて、ルナリアを見た。尻尾が大きく揺れていた。
「……気に入った?」
クロがルナリアの足元に頭を擦り付けた。シロが遠くからそれを見て、小さく唸った。
ルナリアはクロの頭を撫でながら、爪を見た。
「……ちゃんと使ってね」
クロは顔を上げて、また尻尾を振った。
しばらくそのままでいた。クロは動かなかった。ルナリアも動かなかった。
アルスが少し離れた場所で、静かに2体を見ていた。シロもいつの間にかそこにいた。
誰も何も言わなかった。でもその場が、なんとなく落ち着いていた。
---
夜、管理画面に対戦申請の通知が3件来ていた。
「……もう来た」
1件目を開く。
《送信者:ヴァルク(420位)》
《ダンジョン名:煉獄の砦》
《ランク:F》
2件目を開く。
《送信者:ミルト(398位)》
《ダンジョン名:霧時雨の迷宮》
《ランク:F》
3件目を開く。
《送信者:ドーグ(448位)》
《ダンジョン名:岩盤の回廊》
《ランク:F》
「……コアさん、3件とも相手の情報は?」
「……ランクとダンジョンマスター名以外は不明です」
ルナリアはしばらく画面を見たまま動かなかった。
カルナ戦が終わった直後だ。消耗していると思われているのかもしれない。
でも。
昨日の死亡記録を思い出した。ホブゴブリン2体。シャドウバット6体。補充した。でも戻ってきたのは同じ個体じゃない。
また対戦すれば、また消える。
アルスも。クロも。シロも。エリンも。ブレイブも。
失うかもしれない。昨日までは、そんなことを考えたこともなかった。でも今は違う。
分からないまま受けたくなかった。
返信はしなかった。管理画面を閉じた。
クロが足元をうろついていた。爪が床を引っかいた。
昨日より少し鋭い音がした。
不意に、カルナの顔が脳裏をよぎった。
ルナリアはしばらく動かなかった。
お読み頂きありがとうございます。
続きが気になる方は【評価】や【ブックマークに追加】を是非とも宜しくお願いします。




