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第12話 牙と罠


《残り時間:3:55:12》


1層目の戦況を確認した。


入口から流れ込んでくるモンスターは止まっていない。ゴブリン、コボルト、コボルトスカウト。次々と入ってくる。数えるのをやめた。多すぎる。


でも、罠は機能していた。


通路の中盤に仕掛けた矢罠が次々と発動する。壁から矢が飛ぶたびに、前列が崩れる。崩れた隙にアルスが動く。引いて、また引いて、じりじりと奥へ誘い込む。


「……予定通りだ」


でも予定通りなのに、手に汗をかいていた。


相手の数が多い。罠を踏んでも次が来る。アルスが1体倒しても、2体が前に出る。押されているわけじゃない。でも止まっているわけでもない。


「コアさん、1層目の残存モンスターは?」


「……こちら側:アルス・ホブゴブリン4体・クロ・シロ含むウルフ4頭・ラットシャドウ3体。相手側:確認できるだけで28体。まだ増えています」


「28体」


予想より多かった。ギルドの記録には「数が多い」とあった。でもここまでとは思っていなかった。


「……引き続けるしかない」


---


《残り時間:3:48:30》


1層目の罠がほぼ使い切った。


矢罠6個。転倒罠3個。毒針4個。全部発動した。再設置するDPはある。でも時間がかかる。その間に相手が進んでくる。


「アルス、2層目に下がって」


アルスが低く唸った。後退の合図だ。ホブゴブリンが引き始める。ウルフが側面を守りながら下がる。


クロが最後まで残った。


「クロ、来て」


クロが振り返った。尻尾を一度振って、それから駆けてきた。2層目の入口をくぐる。


1層目への入口を閉鎖した。消費DP:20。扉が降りる。相手が破壊するまで時間を稼げる。


「……どれくらい持つ?」


「……現在の相手の戦力では、約8分です」


8分。短い。でも8分あれば2層目の準備ができる。


「コアさん、2層目の罠の状態は?」


「拘束罠:未使用。麻痺罠:未使用。矢罠:3個未使用」


「……まだある」


息を吐いた。1層目で削った。2層目でさらに削る。それが計画だ。計画通りに動いている。


でも、相手の数が想定より多い。


「……このペースで削り切れるか」


答えは出なかった。


---


《残り時間:3:41:15》


扉が破られた。


予想は8分だったが、6分で突破された。


「……早い」


2層目に流れ込んでくる。先頭はコボルトウォリアーだった。進化個体だ。体格が違う。動きが速い。


「まずい」


狭くした通路に誘い込む計画だった。でもコボルトウォリアーは通路の幅を確認してから入ってきた。一列になって進む。狭い通路を理解している。


「……対応してる」


想定外だった。数で押すだけじゃない。動き方を変えてきた。


「アルス、通路の手前で止めて。エリンは後方から」


アルスが前に出た。コボルトウォリアーと正面からぶつかる。狭い通路の中で、1対1になった。アルスの体格はレッサーオーガになってから一回り大きい。でもコボルトウォリアーも速い。互角だった。


「シャドウバット、視線を上に」


シャドウバット隊が天井から一斉に飛び降りた。コボルトウォリアーの視線が乱れる。その隙にアルスが踏み込んだ。


コボルトウォリアーが後退した。でも後ろから次が来ている。


「エリン、今」


エリンの光弾が通路の奥から飛んできた。狭い通路では横に散らせない。直撃する。コボルトが2体崩れた。


「……機能してる」


でも消耗していた。アルスに傷がある。シャドウバットが2体落とされた。エリンの魔力が落ちている。


---


《残り時間:3:33:40》


「コアさん、拘束罠を発動させて。今、通路の中盤にいる群れに」


「……発動します」


通路の床が光った。魔法陣が広がる。先頭のコボルトが気づいた。避けようとした。


間に合わなかった。


拘束罠が発動した。光の鎖が広がって——先頭の2体を捕まえた。


でも後続は止まらなかった。


捕まった2体を踏み越えて、次が来る。拘束罠の上を歩いてくる。


「……雑兵だけか」


頭が冷えた。拘束罠は使った。でも機能したのは2体だけだ。後続は止まっていない。


「……切り札が潰れた」


まずい。麻痺罠はまだある。でも拘束罠ほどの拘束力はない。


「アルス、引いて。無理に止めなくていい」


アルスが後退する。ホブゴブリンが続く。


「麻痺罠を発動させるタイミングを待つ。密集したところで一気に」


管理画面を握り直した。


次の手を考える。拘束罠は潰れた。でも、まだ終わっていない。


---


《残り時間:3:25:08》


管理画面に警告が来た。


《3層目への侵入を検知しました》


「……え?」


「……別動隊です」


「別動隊?」


確認した。2層目の別の通路から、小規模なモンスターが3層目に向かっていた。コボルトスカウトが3体。影に潜りながら進んでいる。


「コアに向かってる」


「……はい」


頭が冷えた。


正面で戦わせて、別のルートからコアを狙う。正面の数の多さは、囮だった。いや、囮というより——両方本気だ。正面で押しながら、スカウトで隙を突く。


「……やられた」


ブレイブを動かした。


「ブレイブ、3層目の通路を塞いで」


ブレイブが動いた。ゆっくりと、でも確実に。3層目の入口でどっしりと立ちはだかる。コボルトスカウト3体がブレイブを見た。一瞬、止まった。


ソードラビットを動かした。素早い。コボルトスカウトの1体が気づく前に突進が入った。1体が倒れる。残り2体がブレイブを迂回しようとする。でもブレイブは通路を塞ぎ続ける。


「……持ちこたえてる」


でも正面の圧力は止まっていない。拘束罠は潰れた。麻痺罠はまだある。でも、ここで使うか、もう少し引きつけるか。


ルナリアは管理画面を握り直した。


汗が、止まらなかった。

お読み頂きありがとうございます。

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