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第13話 逆転


牙砦のダンジョンコアの前で、カルナは管理画面を見ていた。


《残り時間:3:22:40》


「……やっぱり守り型だったな」


読んでいた通りだ。正面から押せば引く。引きながら削る。罠で時間を稼ぐ。典型的な籠城戦術だ。


「拘束罠か」


捨て駒で踏み越えさせた。対策は単純だ。でも——


「それなりに考えてる」


ダンフェスで見た時は弱そうだと思った。今もそう思っている。でも、弱いのとは少し違う気がしてきた。


戦術を組んでいる。モンスターを機能させている。何より、ここまで一体も大きなミスをしていない。


「別動隊はどこまで行った?」


「……3層目入口で止まっています。タンク型の個体がいます」


「タンクか」


カルナは少し考えた。別動隊は囮だ。コアを狙わせるフリをして、正面の守りを薄くさせる。でもタンクが塞いでいる以上、正面に戦力を戻すという判断はしないはずだ。


「……正面を押し続ける。コボルトウォリアーをさらに前に出せ」


管理画面に指示を入力した。


「面白いじゃないか」


誰にともなく、呟いた。


---


《残り時間:3:15:08》


ルナリアは管理画面を見続けていた。


麻痺罠。まだ使っていない。でも今じゃない。もう少し引きつける。密集したところで一気に使う。それが最後の手だ。


「コアさん、2層目の敵の位置は?」


「……通路中盤から奥にかけて密集しています」


「今」


「コアさん、麻痺罠発動」


通路の床に魔法陣が広がった。踏み込んだ個体の動きが鈍くなる。止まらない。でも、遅くなった。


「エリン、今のうちに」


エリンが光弾を連射する。動きが鈍った前列に集中的に当たる。2体が崩れた。でも後続はまだ来ている。麻痺の効果が薄れ始めた。


「アルス、押して」


アルスが踏み込んだ。動きの鈍ったコボルトウォリアーに正面からぶつかる。完全には止まっていない。それでも、いつもより一瞬だけ遅かった。


その一瞬で、アルスが踏み込んだ。


「クロ、側面」


クロが飛び出した。コボルトウォリアーの横から体当たりする。体勢が崩れた。


「シロ、退路」


シロがコボルトウォリアーの後ろに回り込んだ。静かに、素早く。退路を塞ぐ。


コボルトウォリアーが止まった。前はアルス。横はクロ。後ろはシロ。


アルスの拳が入った。


コボルトウォリアーが崩れた。


「……削れてる」


でも消耗していた。アルスに傷がある。エリンの魔力が落ちている。クロが足を引きずっていた。麻痺罠で仕留めたのは2体だけだ。残りはみんなで削った。


---


《残り時間:2:58:33》


「コアさん、相手の残存は?」


「……2層目に8体。3層目入口のスカウトが1体」


「増援の反応は?」


「……ありません。牙砦からの追加侵入は確認されていません」


増援がない。つまり、カルナが送れる戦力はもう尽きている。


「……こっちが残ってる」


相手は残り8体。こちらの戦力は消耗しているが、まだ戦える。守り続けても削れる保証はない。でも今なら——


「攻める」


---


「コアさん、牙砦への侵入経路は?」


「……牙砦の入口から侵入できます」


「アルス」


アルスが振り返った。


「突破して。牙砦の入口から入って、コアを破壊してきて」


アルスはしばらくルナリアを見た。それから、前を向いた。


「クロ、シロ、一緒に行って。ラットシャドウで先行偵察して」


クロが低く唸った。尻尾が揺れた。シロがクロの隣に並んだ。


アルスが動いた。


---


《残り時間:2:41:17》


管理画面越しに見ていた。


アルスが先頭に立った。ラットシャドウが影に潜りながら先行する。クロが側面を走る。シロがその後ろだ。


残り8体と正面からぶつかった。


コボルトが前に出る。アルスが押し込む。クロが側面から飛び込んだ。シロが逆側から挟む。


1体、また1体と崩れていく。


《残り時間:2:33:55》


「……牙砦の入口に到達しました」


アルスたちが入口をくぐる。


でもそこで止まった。


牙砦の1層目。コボルトが6体、通路を塞いでいた。


「……最後の守りか」


カルナが残していた。最後まで、戦力を置いていた。


「ラットシャドウ、先行して」


ラットシャドウが影に潜りながら進む。罠の位置を確認する。安全なルートを示す。


クロが飛び出した。先頭のコボルトに突っ込む。体当たりではない。かき乱す動きだ。後続が乱れた。


そこにアルスが踏み込んだ。


シロが通路の端から静かに動いた。退路を塞ぐ。逃げ場がない。


崩れていく。


6体が、崩れた。


《残り時間:2:21:08》


「……最下層に向かっています」


アルスが最下層の通路を進んでいく。罠がある。ラットシャドウが止まった。アルスが回避ルートを確認する。


クロが先に駆けた。罠を踏んだ。


「クロ!」


クロが吹き飛んだ。でも起き上がった。尻尾を振った。


「……大丈夫か」


クロはもう走っていた。


アルスがコアの間に入った。


カルナがいた。


管理画面の前で、じっとこちらを見ていた。逃げない。動かない。ただ、立っていた。


ダンジョンコアが中央に浮いている。


アルスはカルナを見た。カルナはアルスを見た。


しばらく、そのままだった。


カルナが、小さく息を吐いた。


「……私の負けだ」


アルスは何も言わなかった。


それから、前を向いた。


拳を構えた。


「……やって」


ルナリアの声が出た。


アルスの拳が、コアに叩き込まれた。


光が広がった。コアが砕ける。と同時に、カルナの体が光に包まれた。


抵抗しなかった。ただ、光の中でカルナはまだこちらを見ていた。


最後まで、その目は怒っていなかった。


光が消えた。


コアの間には、何も残っていなかった。


《牙砦のダンジョンコアを破壊しました》

《対戦終了》

《精霊の遊庭の勝利》


---


精霊の遊庭に戻った。


管理画面を開いた。


《対戦結果:精霊の遊庭の勝利》

《SP+15・DP+1000》


ニルムの声が管理画面から流れた。


「お疲れ様ー。結果は全ダンジョンマスターに通知しておくね」


軽い声だった。でも今は、その軽さが少しだけありがたかった。


SP残高が20になった。


「……コアさん」


「……はい」


「勝ったよ」


「……はい」


いつもの返事だった。


でもルナリアは、少しだけ笑った。


管理画面で残存モンスターを確認した。消耗している。補充しないといけない。


召喚リストを開いた。


「……ホブゴブリンが買える」


アルスがレッサーオーガになったからだ。ダンジョン内の最大進化の一個前まで買える。今まで買えなかったものが、買えるようになっている。


まず戦力を戻す。


アルスがそばに戻ってきた。体中に傷がある。クロが足元をうろついている。足を引きずっていたのに、もう走っている。シロがその後ろから来た。


「……ありがとう、みんな」


クロが鼻を鳴らした。アルスは何も言わなかった。シロはそのままだった。


精霊の遊庭は静かだった。


でも今日は、その静けさが少しだけ違う気がした。

お読み頂きありがとうございます。

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