第8話 牙砦のダンジョンマスター
ダンフェスの映像が、まだ頭に残っていた。
カルナは管理画面を閉じたまま、牙砦の1層目に立っていた。足元では召喚したばかりのゴブリンが走り回っている。うるさい。でも今は気にならなかった。
あの映像だ。
ダンフェスで流れた、今期の新規ダンジョンマスター一覧。名前と顔が一瞬だけ映る。それだけだ。ほとんどのダンジョンマスターは流し見して終わりにする。カルナもそうするつもりだった。
でも、一人だけ引っかかった。
精霊の遊庭。430位。ルナリア。
「……子どもじゃないか」
外見年齢で言えば14か15。細くて、頼りなくて、どこにでもいそうな顔をしていた。それがダンジョンマスターをやっている。
「Fランクまで上がったのか」
まあ、それは分かる。準備期間を乗り越えれば誰でもFランクにはなれる。問題はここからだ。
カルナは管理画面を開いた。ランキングを確認する。
自分:440位。
精霊の遊庭:430位。
「10位差か」
10位差。数字だけ見れば近い。でも実態は違う。カルナは牙砦を着実に育ててきた。モンスターの数は今期の新規の中でも上位だ。コボルト系の進化個体も揃っている。
あの子どもが、自分より上にいる。
「……気に入らないな」
別に恨みはない。ただ、単純に気に入らなかった。
ダンジョンマスターは結果で語られる。ランキングがすべてだ。そのランキングで、あの顔が自分より上にいる。それだけの話だ。
管理画面でダンジョンマスター通信を開いた。
精霊の遊庭。ルナリア。
対戦申請欄を開く。
「……申請してみるか」
舐めているわけじゃない。ただ、勝てると思った。モンスターの数では負けない。進化の質でも負けない。あとはどれだけ相手のダンジョンを早く突破できるかだ。
申請を送信した。
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返信が来るまで、カルナは牙砦を回った。
1層目。入口から奥まで、モンスターがびっしり配置されている。ゴブリン、コボルト。数が力だ。策も罠も要らない。数で押せば突破される前に相手が折れる。それがカルナの戦い方だった。
2層目に降りた。ここには進化個体を集めている。コボルトスカウト。コボルトウォリアー。最前線に立たせる精鋭だ。
黒みがかったコボルトが近寄ってきた。カルナの足元で一度止まって、また離れた。
「……邪魔」
コボルトが唸った。でもカルナを見ている目は、敵意じゃない。
「分かった分かった」
頭を軽く叩いた。コボルトが満足そうに戻っていった。
「まったく」
ため息をついた。名前もつけていない。でもこいつらは、それでもカルナについてくる。文句を言いながら撫でてやると、尻尾を振る。
単純だ。でも、嫌いじゃない。
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管理画面に通知が来た。
《精霊の遊庭:条件を確認中です。少しお時間をください》
「……時間をくれ、か」
カルナは短く息を吐いた。
迷っている。それだけで分かる。ランキング10位下の相手から申請が来て、どうしようか考えている。
返信を打った。
《待たされるのは好きじゃない》
送信してから、管理画面を閉じた。
急かしているのは分かってる。でもそういうつもりじゃない。ただ、思ったことを書いただけだ。
「……早く答えを出せよ」
誰にともなく、呟いた。
牙砦の奥で、モンスターたちが低く鳴き交わしていた。
カルナはしばらくその声を聞きながら、精霊の遊庭のことを考えた。
Fランクのダンジョン。14歳くらいの顔をしたダンジョンマスター。430位。
「……どんなダンジョン作ってるんだ」
少しだけ、気になっていた。
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