第3話 地形とコストの現実
朝が来た。
たぶん、朝だ。
洞窟に窓はなく、太陽も見えない。ただ、目が覚めた。それだけで朝と決めることにした。
アルスがそこにいた。
いつからいたのか分からない。物音も立てず、ルナリアの斜め後ろに立っていた。昨日と同じ位置だ。
「……おはよう、アルス」
アルスは低く喉を鳴らした。
管理画面を開く。
DP残高:47。
「……これ、多いの?少ないの?」
「現在のDP残高は47です。昨日より13増加しています」
「13増えた、か」
増え方は分かった。でも47で何ができるのか、まだ分からない。
試しに、管理画面の地形変更を開いてみた。
消費DP:120。
「……高っ」
思わず声に出た。47しかないのに120必要だ。倍以上ある。
「無理じゃん……」
頭を抱えた瞬間、アルスが近寄ってきた。
管理画面を覗き込む。丸い目が、数字と自分を交互に見ていた。
「……見ても分からないでしょ」
アルスは答えない。でも離れなかった。
「……まあ、一緒に考えてくれてるってことにしとく」
管理画面をスクロールする。地形変更は無理だ。では今できることは何か。
チュートリアルの項目が目に入った。
——チュートリアル(未実施)
開いてみると、項目がいくつか並んでいる。召喚エリアの設置。地形変更。罠の設置。そして——ダンジョン探索。
「探索……チュートリアルで探索できるの?」
「はい。ダンジョン内の未確認エリアを探索することで、隠れた資源や採取ポイントを発見できる場合があります。費用は発生しません」
「費用なし、か」
それならやれる。今の47DPを一切使わずに何かができるなら、やらない理由がない。
「アルス、ついてきて」
アルスはすでに横にいた。
---
洞窟の奥は静かだった。
ルナリアは管理画面を片手に、通路を進んでいった。アルスが斜め後ろについてくる。その足音は不思議なほど静かだった。
分岐路を右に曲がる。外れだった。
左に曲がる。行き止まりだった。
さらに奥へ。
壁の一角が、他より少しだけ色が違った。
「……ここ?」
手を当ててみる。冷たい。でも——なんとなく、違う感触がする。
管理画面に通知が来た。
《採取ポイントを発見しました》
《鉄鉱石:採取可能》
「……あった」
「鉄鉱石って何に使えるの?」
「武具や設備の素材として利用できます」
「つまり……当たり?」
「はい」
小さな声が、洞窟に溶けた。当たりらしい。それだけで、少しだけ胸が軽くなった。
アルスが壁に近づいて、鼻を鳴らした。確認している。
「分かる?」
アルスは低く喉を鳴らした。
管理画面に次の通知が来た。
《チュートリアル「ダンジョン探索」:完了》
《報酬:DP+20》
DP残高:67。
「……67か」
120まではまだ遠い。でも、47よりはましだ。
少しずつ、前に進んでいる。
「①採取ポイントを活用する。②侵入者を呼び込む仕組みを作る。③罠の基礎を覚える」
管理画面のメモ欄に、文字を打ち込む。
声に出して確認するのが、なんとなく落ち着く気がした。
「……ねぇ、コアさん。これでいいと思う?」
「……計画の実行可否については判断できません」
「そっか」
返事はそんなものだ。もう分かっている。
アルスがそばに立っていた。
「……今日も一緒にいてくれる?」
アルスは答えない。でも、その場を動かなかった。
ルナリアはそれを、返事だと思うことにした。
気づかなかった。
アルスが先ほど発見した鉄鉱石の壁を、何度も振り返っていたことに。
その視線が、ただ珍しがっているだけには見えなかったことにも。
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