第2話 アルスとの出会い
朝が来た。
たぶん、朝だ。
洞窟に窓はなく、太陽も見えない。ただ、目が覚めた。それだけで朝と決めることにした。
昨日、ひとしきり洞窟を歩き回って、コアに話しかけて、それからどうしたのか。気づいたら岩の床に座ったまま意識が落ちていた。ベッドも毛布もない。それでも眠れたのは、精神的に限界だったからだと思う。
ルナリアは起き上がり、まず管理画面を開いた。
右下に、昨夜の通知がまだ残っていた。
《初回召喚対象:ゴブリン》
「……やるか」
迷う理由はなかった。昨夜からずっと、それだけを考えていた。
管理画面でチュートリアルを開く。召喚エリアを指定して、承認する。洞窟の一角に、薄く光る領域が出現した。
光が集まり始める。
ルナリアは思わず一歩引いた。
光が、弾けた。
そこに立っていたのは——ゴブリンだった。
小柄で、緑がかった肌。丸い目が、ぱちぱちと瞬く。
ゴブリンは周囲を見渡した。洞窟。ダンジョンコア。そしてルナリア。
最後にもう一度、ダンジョンコアを見た。
「……?」
なぜコアを見たのか。分からない。でも確かに、もう一度見た。
ゴブリンはゆっくりとルナリアの前に歩いてきた。そして——頭を下げた。
「……え」
ゴブリンが頭を下げている。深く、はっきりと。
ルナリアはしばらく固まっていた。ゴブリンってこういうものなのか。それとも、このゴブリンだけが?
ゴブリンはゆっくりと頭を上げた。そしてルナリアの横を通り過ぎて、少し後ろの位置に立った。
ルナリアが入口の方を向いたとき、ゴブリンはその斜め後ろにいた。
ルナリアが壁際に移動すると、ゴブリンはまたその少し後ろについてきた。
「……何してるの?」
ゴブリンは答えない。
だが視線だけは、ずっとルナリアを追っていた。
まるで護衛対象を確認する騎士みたいに。
管理画面を開くと、このゴブリンの情報が表示されていた。ステータス。スキル。そして——名前欄。空白だった。
「名前、つけられるんだ」
「はい。名前を付与することでステータスが上昇します。詳細はヘルプをご参照ください」
消費DP:10。
「……つけよう」
ルナリアはもう一度、ゴブリンを見た。
ゴブリンは相変わらず、じっとこちらを見ていた。
昨夜、《初回召喚対象:ゴブリン》という文字を見たとき、なぜか懐かしい気がした。今もその感覚は残っている。理由は分からない。でも——
「……アルス」
なんとなく、そう思った。
理由は特にない。ただ、そう呼びたかった。
名前欄に「アルス」と入力して、承認する。
——名前「アルス」を付与しました。
「コアさん、名前つけたよ」
「……了解しました」
それだけだった。
でもアルスは、その言葉を聞いた瞬間、一度だけ深く息を吐いた。
まるで、ずっと待っていたみたいに。
「……よろしくね、アルス」
アルスは短く、低く、喉を鳴らした。
そして一歩前に出た。
ダンジョンコアの方を向いて——ほんの一瞬だけ、頭を下げた。
「……」
ルナリアは何も言えなかった。
アルスはすぐに元の位置に戻って、また静かにルナリアの後ろに立った。
今のは、何だったのか。
誰への礼なのか。
なぜそうしたのか。
分からない。でも確かに、見た。
このゴブリンは——少しだけ、おかしい。
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