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第5話 準備と情報収集


ダンジョン対戦のミッションが来てから、数日が経った。


ミッションは保留のままだ。受けると決めた。でも、どのダンジョンと戦うかすら決まっていない。


「コアさん、ダンジョン対戦って具体的にどういう流れなの?」


「申請から始まります。双方が合意すれば準備期間に入り、その後担当神が用意した中立空間へ転移して本番を行います。結果は全ダンジョンマスターへ通知されます」


「中立空間って?」


「担当神が用意した白い空間です。双方のダンジョンマスターが集められて、最終的なルール確認を行います。不公平なルールがないか担当神が確認した上で、それぞれのダンジョンへ転移して本番が始まります」


「……自分のダンジョンを持ち込むの?」


「はい。開始直前のダンジョンの状態がそのまま反映されます」


ルナリアはしばらく黙った。


つまり自分のダンジョンの構成が、そのまま戦力になる。侵入者相手の防衛とは違う。相手も同じことを考えている。お互いのダンジョンがぶつかり合う。


「相手のダンジョン構成って、事前に分かる?」


「申請後に確認できるのは、相手のランク・ダンジョン名・ダンジョンマスター名のみです。詳細な構成は分かりません」


「……つまり相手が何を持ってくるか分からないまま戦う」


「はい」


分からないまま戦う。それが一番厄介だった。


今まで侵入者と戦ってきた。相手の構成は見えていた。管理画面で確認できた。でも対戦では、相手が何を持ってくるか分からない。


「……どうやって準備すればいいんだ」


---


今日はアバターで街に出ることにした。


ギルドで情報を集める。どんな傾向のダンジョンが多いか。冒険者たちが話す情報を拾う。ダンジョンに潜った経験のある冒険者なら、構成の傾向くらいは話してくれるはずだ。


街に着くとギルドに向かった。


受付のエリカが書類を整理している。ライゼンが壁際で書物を読んでいた。


依頼ボードを眺めながら、周りの会話に耳を立てた。


「あそこのダンジョン、ゴブリンばっかりだったな」


「数で押してくるタイプか。面倒くさい」


「俺が行ったやつは罠がほとんどなかった。モンスターに全振りしてた」


「逆に罠だらけのやつもあるよな。モンスターは弱いのに全然進めない」


「……魔法使いが多いダンジョンは嫌だな。遠距離から一方的に撃ってくる」


なるほど。大きく分けると、モンスター数重視型・罠重視型・魔法重視型、という傾向がある。


どのタイプの相手が来るか。それによって準備が全然変わる。


「……情報が少なすぎる」


書棚に向かった。ダンジョンに関する記録を探す。でもダンジョンマスターの内部情報は一切ない。冒険者視点の攻略記録しかない。


「……やっぱり分からないか」


帰り際、ライゼンが視線を上げた。


「また来たのか」


「……調べ物があって」


「ダンジョンのことか」


ルナリアは少し考えてから、頷いた。


「そうです」


「ダンジョンの傾向を知りたいなら、冒険者の報告書より実際に潜った奴に聞いた方がいい」


「……ギルドの記録じゃ分からないですか」


「記録は結果だ。どういう戦い方をしてくるかは書いてない」


ライゼンは視線を書物に戻した。それだけだった。


「……ありがとうございます」


ライゼンは答えなかった。


---


帰還してから、管理画面を開いた。


Fランクになってから、罠のラインナップが増えていた。矢罠。連射矢罠。拘束罠。麻痺罠。


「……これ、全部使えるのか」


矢罠の説明文を読む。壁から矢が飛び出す。通過するだけで当たる。急所に当たると大ダメージ。


「……Gランクの毒針より範囲が広いな」


拘束罠は高コストだが、一度捕まえれば完全に動きを止められる。麻痺罠は魔法陣を踏むと一定時間行動不能になる。


「対戦で使えるかもしれない」


でも相手の構成が分からない。罠重視で来るなら意味が薄い。モンスター重視で来るなら罠は刺さる。どちらかによって準備が全然変わる。


「……分からないまま準備するしかないか」


管理画面のメモ欄を開いた。


「対策A:相手がモンスター重視の場合→罠を増やす・拘束罠で止める・エリンの部隊で削る」

「対策B:相手が罠重視の場合→ラット隊で先行偵察・安全なルートをアルスに伝える・ブレイブで壁を作る」


2パターン用意しておく。どちらにも対応できる準備をする。


「……これしかないか」


---


管理画面を閉じようとしたとき、2層目の森でウルフ隊が動いているのが見えた。


黒いウルフが先頭を走っている。木々の間を縫うように、素早く動いていた。白いウルフがその後ろをついていく。少し遅れながらも、しっかり追いかけている。他の3頭もその後ろだ。群れとして動いている。


「……上手くなってるな」


アルスが2層目の端で見ていた。腕を組んで、じっとウルフ隊の動きを観察している。


「……コーチしてるの、アルス?」


アルスは振り返らなかった。でも耳が少し動いた。


黒いウルフが木の陰から急に飛び出した。白いウルフが反対側から挟む動きをした。連携だ。自分たちで考えた動きに見えた。


しばらく見ていると、黒いウルフが突然訓練をやめた。


くんくんと鼻を動かしながら、アルスの方へ歩いていく。アルスは気づいていたはずだ。でも動かなかった。


黒いウルフはアルスの腕に鼻を押しつけた。それから顔を上げて、アルスをじっと見た。何かを要求しているような目だった。


アルスは少し間を置いてから、その頭に手を置いた。


撫でた。


「……え」


黒いウルフは満足そうに目を細めた。尻尾が揺れていた。しばらくそのままでいてから、また群れに戻っていった。


白いウルフが黒いウルフを一瞥した。それから小さく唸って、視線を外した。呆れているように見えた。


「……アルスが撫でた」


ルナリアはしばらくその場面を眺めていた。


アルスが誰かを撫でるところを見たのは、初めてだった。


そのとき、管理画面に通知が来た。


《対戦申請を受信しました》




お読み頂きありがとうございます。

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