第4話 不屈
その日は朝から忙しかった。
準備期間が終わってから、侵入者の数は増え続けている。Fランクに上がってから、Eランクの冒険者も混じるようになった。今日はその数が特に多かった。
午前中だけで4パーティ。全員撃退した。でも消耗が積み重なっていた。
ゴブリンが2体やられた。コウモリが1体落とされた。
「……補充したい」
でもDPが足りない。召喚エリアからの自動補充はまだ始まったばかりで、今日分はもう使っている。
そこに6人組の通知が来た。
——侵入者を検知しました。1層目・入口付近。人数:6名。
「……また来た」
管理画面を確認した。6人の構成を見る。前衛が3人、後衛が2人、斥候が1人。斥候が先行して罠の位置を確認し、前衛が壁を作り、後衛が安全な位置から攻撃する。練度が高い。
「……手強い」
斥候が先行してきた。罠の位置をひとつひとつ確認しながら進む。落とし穴を避ける。毒針トラップを回避する。転倒トラップを慎重に踏まないように歩いている。
「……罠が通じない」
シャドウバットを動かした。斥候の視線を上に向ける。その隙に——でも斥候は冷静だった。上を確認しながら、足元も見ている。片方に集中しない。
前衛3人が入ってきた。横に広がって壁を作る。後衛が安全な位置に収まった。
「……陣形が崩れない」
ゴブリン小隊が前に出た。でも前衛の壁に阻まれて入り込めない。ホブゴブリンが側面を取ろうとした。でも前衛の一人がすぐに対応した。連携が取れている。
後衛が魔法を放ち始めた。光弾がゴブリン小隊に当たる。ゴブリンが1体倒れた。また1体倒れた。
「……まずい」
エリンを動かした。後衛に向けて光弾を放つ。でも前衛が盾を構えて防いだ。後衛を守っている。
ウルフを動かした。側面から駆け込む。でも斥候が気づいていた。前衛の一人がウルフに向かってきた。
じりじりと押されていく。
アルスが前に出た。前衛の一人と正面からぶつかる。互角だった。でもアルスが1人に集中すれば、残り2人がフリーになる。
また魔法が飛んできた。ホブゴブリンが1体倒れた。
「……」
ルナリアは歯を食いしばった。手が動かない。指示を出しても追いつかない。相手の動きが速すぎる。
その時、ブレイブが動いた。
入口付近から、ゆっくりとした足取りで前に出る。いつも通りの動きだ。でも今日は違った。
前衛の壁の前に立ったブレイブは、一瞬止まった。
そして、突進した。
ブレイブが走った。岩の体が地面を揺らす。前衛の一人が盾を構えた。でもブレイブは止まらなかった。盾ごと体当たりする。
ドン、と鈍い音がした。
前衛の一人が体勢を崩した。盾が弾き飛ぶ。後衛への視線が一瞬開いた。
アルスが動いた。崩れた隙間を抜けて後衛に向かう。ウルフが続く。エリンが後衛に向けて光弾を連射した。
「撤退だ!」
6人が引き返した。
——侵入者が撤退しました。DP:+52。
ブレイブはその場に立っていた。
体中に傷がある。突進の衝撃で腕の一部が欠けている。それでも倒れていない。
「……コアさん、ブレイブを3層目に転送して」
---
3層目に降りた。
ブレイブは住居エリアの隅に立っていた。傾いている。でも崩れない。
「……また頑張ったね」
回復薬を当てた。光が傷に染み込んでいく。少しずつ岩肌が戻っていく。
今日倒れたモンスターの数を確認した。ゴブリン3体。ホブゴブリン1体。コウモリ1体。
「……補充しよう」
ゴブリンを3体召喚した。消費DP:15。コウモリを2体召喚した。消費DP:4。
それだけじゃ足りない気がした。
「……ホブゴブリン系の前衛をもう少し厚くしたい」
ゴブリンをさらに3体召喚した。消費DP:15。進化できる個体が出てくれば前線に回せる。今はとにかく数だ。
DP残高を確認した。今日の収入と召喚の消費で計算すると——
「……まあ、なんとかなるか」
なんとかならないかもしれない。でも今夜はそう思うことにした。
ブレイブがまだそこに立っていた。
「おやすみ、ブレイブ」
ブレイブは答えない。でも立ち方が、少しだけ落ち着いているように見えた。
念のため、ブレイブのステータスを開いた。
経験値欄がほとんど埋まっていた。
---
翌朝、管理画面を開くと通知が来ていた。
《ブレイブ》
《進化条件を達成しました》
《進化しますか?》
「……進化できるんだ」
進化先を確認する。
「ストーンゴーレムです。耐久・防御・突進力が向上します」
「突進力も上がるんだ」
昨日の突進を思い出した。あれで前衛の壁を崩した。それが強化される。
「進化させよう」
承認する。
ブレイブの体が光に包まれた。アルスの時のような静けさでも、エリンの時のような魔素の流れでもない。ただ、岩が岩になっていくような、重みのある変化だった。
光が消えた。
ブレイブは少し大きくなっていた。体の色が深くなっている。表面の質感が変わって、より硬そうだ。
「……ブレイブ」
ブレイブは動かない。ただそこに立っている。
でも昨日より、少しだけ、堂々としているように見えた。
《ブレイブ》
《種族:ストーンゴーレム》
《フレーバーテキスト:不屈》
「……不屈、か」
変わらない。進化しても、その一文は変わらない。
「これからもよろしくね、ブレイブ」
ブレイブは答えなかった。
でも今日も、いつもの場所に立っていた。
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